「髹漆」伝承者養成技術研修会(2013 - 2014 年)

増村紀一郎先生による重要無形文化財
「髹漆」の研修会

活動報告

  • 2013年8月26日(月)1日目

    増村紀一郎先生のご挨拶により研修会が開始される。豊かな自然観察から得られる植物デザインと素材美を生かした造形物の形成を目的とし、器物を制作する。各自、屋外にてスケッチを行う。先生の東京藝術大学『退任記念一増村紀一郎漆芸展 漆の美と技』の図録掲載作品を参照しながら詳細な技法や素材について解説を頂く。また、この研修会場となった木曽漆器館の館長小松俊夫氏よりご紹介があり、館内は増村益城先生をはじめとする人間国宝の先生方の漆芸作品や県内外の漆芸作家作品の他、先人たちの漆芸関連道具も展示されている。参考資料とし、有意義な研修にして頂きたいとの旨、お言葉を頂戴した。
    終日、スケッチをもとにデザインし、平面図、立面図による構想を行う。

  • 2013年8月27日(火)2日目

    デザイン図をもとに立体的な構想と粘士原型の作成準備に入る。デザインした形態の図をもとに樹脂板(原型板)、引き型、軸芯を作成し、粘士原型をつくる為の装置を完成させる。この装置をガラス板にセットし、水粘士をつけながら引き型を回転させ粘土原型を作る。
    これら制作にともなう鮫木(やすり)などの道具を作ることも並行して行い、身近な物で創意工夫することにも触れ手本とした。

    粘土原型の樹脂板(原型板)、引き型作り

  • 2013年8月28日(水)3日目

    前日に引き続き、完成予想を考慮に入れ粘土原型の高さや曲面のバランスなど造形的な美しさを求め粘土原型を完成させる。
    粘土原型に溶いた石膏液を流し、アルミ線、寒冷紗を添える。その後、石膏液を数回かけ雌型の完成となる。

    粘土原型を作成する

    石膏原型(雄型)作り

  • 2013年8月29日(木)4日目

    雌型から粘土を取り除く。雌型に離型剤(カリ石鹸)を塗る。石鹸塗膜が乾いたら石膏液を流し、ガラス板を雌型に伏せ、一層目をつくる。石膏液が硬化したらガラス板をはずし、ここに石膏液に浸したスッタフを貼りつけ石膏型を強化させる。流す石膏液は数回に抑え、薄くとも強度の高い雄型をつくる。

  • 2013年8月30日(金)5日目

    雄型に気を配りつつ、雌型を割り取り除く。先生自ら割り出しノミの持ち方や刃の向き、ハンマーの力加減を実践で示された。雄型に細部の修正を行い乾燥させる。
    翌日に備え、切り出し刀、塗師刀などの刃物や篦、漆刷毛など髹漆に必要な道具の調整と手入れを行う。

  • 2013年8月31日(土)6日目

    完成した石膏原型に離型と下地の作業を施す。糊漆、切粉の作り方など漆と材料の調合を習う。これらを刷毛塗りするが刷毛の持ち方、手の送り方、刷毛目の消し方の指導を受ける。
    次年度に向け家庭課題となる為、和紙の貼り方、麻布の着せ方、目摺りや地付け、錆付けを手板にそって確認し、各自制作方針の指導を受ける。全体には脱乾漆前の下地付けまでが課題となる。

  • 2014年8月25日(月)1日目

    早速、脱乾漆作業に入る。縁を切り出し刀で整える。雄型の内側に水をはり離型下地へ水分を浸透させた後、割り出しノミを使い型からはずしてゆく。乾漆素地の造形的なパランスをみる。上縁に鮫木を使いながら鑪がけし、器物に絶妙な量感を作り出す。上縁に漆固めをし、錆漆を刷毛付けする。
    漆風呂に入れて乾かす。
    翌日に備え、砥石の切り出しを行う。

    脱乾漆後、造形的なバランスを見る

    縁に漆固めをする

  • 2014年8月26日(火)2日目

    乾漆素地内側の錆地を赤低石で中研ぎし、外側の切粉地はグリーンカーボン砥石で下地研ぎをする。各種砥石の性質を見極めながら、その成形やあて木の作り方また形態に合わせた砥石の研ぎあて方を習い、造形的な美しいフォルムをめざして研ぎつめてゆく。
    漆固めの後、各所に切粉や錆漆の地付け作業をして漆風呂に入れる。

    下地研ぎの調整

  • 2014年8月27日(水)3日目

    進行状況に差はあるが引き続き各所の切粉地や錆地を追って砥石研ぎをする。形態の研ぎが完成した者から松煙炭による黒漆の下塗りを始める。この黒漆は、黒色が変化しないが肉がつかない性質であるのに対し、鉄粉による黒漆は時代が経つと黒色が透いてくるが肉をもつという性質がある。これらの漆を使い分け、下塗り、中塗り、上塗り用とする。
    この日は先生の香合作品にて和紙貼りを習う。また、各種和紙の違いにも触れ、切り方、糊漆の作り方、貼り方について指導を得る。
    その後、地元の荻村卓司氏工房や木曽アルテック社の見学も行った。

  • 2014年8月28日(木)4日目

    繰り返しの作業になるが地付けには砥石研ぎを行う。また漆塗面は駿河炭で水研ぎし、炭の当たらない凹みには錆漆をする。この錆漆は、木曽の錆土を使用する。
    受講者の作品を一例におき、縄目をいかした乾漆素地の肌合いをやわらかにする為に和紙肌仕上げを実践される。器物の各部所に麻布紙、美栖紙と異なる和紙を使い分け、糊漆の配り方、貼り方の手本をみる。

    布目肌に和紙を貼る様子(先生による)

    縄目をいかした和紙貼り

  • 2014年8月29日(金)5日目

    外側・内側に同様の仕事を重ねながら、美しいフォルムを持った漆塗面がつくられてゆく。
    この日、漆下地技法の一つとして刻苧並びにその道具の刻苧篦の作り方、使用方法を習う。
    また、先生の作品の代表にあげられる加飾技法に金彩がある。それを実践して下さった。金箔を砂子蒔きする技法で、漆と煌めく紛を重ね、しっとりと優美さのある工程を拝見した。

    加飾の金彩技法を行う(先生による)

  • 2014年8月30日(土)6日目

    各自、作業を進める。仕上げ塗には多彩な技法があげられるが、その中で木地蠟色塗・目はじき塗・布目塗・へぎ目一閑塗について手板とプリントにより説明される。また、蠟色仕上げによる各種炭研ぎ、胴擦、摺漆、磨き方も学ぶ。
    仕上げ技法については、この研修で培ったものを生かし、新たな試みに挑戦したり、また得意とする技法と組み合わせ表現をしたいなど思いは様々である。今後は自主制作によって完成することを期待し閉会した。
    増村紀一郎先生の教えに、美の様相として"漆の素材美"、"技術美"、"造形美"があり、これらを満たす為に原材料の見極め、道具づくりとその調整、技術に伴う様々な所作を学ぶことができたと思います。また、この研修のテーマとなる"観察と形成"は、私たちが自然と共に生きるものとして、愛で、慈しみ、自然の美しさから学ぶことの大切さと、内なる自分と対峙することによって生まれてくる造形を目指すものでした。
    ここに、貴重な経験を積まれたことは制作において受け継がれると共に、今後の日本工芸会の更なる発展となることを祈念いたします。

  • 平成25年、26年の8月の最終週、増村紀一郎先生より乾漆による作品作りの研修を受講しました。
    1年目は石膏型を作りましたが、作品のモチーフ探しから始まりました。周辺の豊かな自然の中を歩き回り気になる植物を観察、スケッチしました。そのために各人各様の作品になりましたが、実際の作業に入るとその多様さからいろいろな状況が生み出され、非常に参考になりました。しかし何よりも作品を生むにあたって、思いを形に置き換えるという原点の重要性を再認識しました。
    研修はさらに石膏型を作るために引き型作り~粘土型~雌型石膏~雄型石膏と進みましたが、使う材料道具が違うと中々思うようにいかず苦心しました。最終日は増村先生から自宅での作業を個々に指導を受けて終了しました。
    2年目は脱乾できるまでにした作品を持って集合しました。脱乾から上縁等の成型を経て漆の作業を行ったのですが、研ぎなどの作業中や乾き待ちの時間に道具や技法の講義を受け、先生ご自身の制作中の作品でも実際に作業するところを見せていただきました。
    日数のかかる漆の性質上、完成には遠く研修は終了しましたが、先生の手元を見せて頂くことで作業を一つ一つ確実に積み上げていく事の大切さを感じましたし、道具から仕事の運び方まで諸事に創意工夫し、発想を柔軟に持つことを教えて頂きました。また制作する技法や環境も様々な受講生と一緒に作業することは、とても刺激になりました。各々この研修が今後の制作にどう反映されていくかが楽しみです。最後に増村先生はもちろん、不足なく研修を受けることに尽力して下さった助手の長内先生、豊平先生、気持ちのよい研修場所を提供して下さった木曽漆器館に心より感謝申し上げます。