「献上博多織」伝承者養成技術研修会(2013 - 2014 年)

小川規三郎先生による重要無形文化財
「献上博多織」の研修会

活動報告

  • 2013年10月7日(月)1日目

    午前11時、地下鉄別府駅改札口に集合。皆で昼食をとった後、小川規三郎工房へ移動。まず、日本工芸会文化財保存事業委員の鈴田滋人先生より本事業の趣旨説明を受ける。続いて小川先生より研修スケジュールの説明と博多織についての講義を受けた後、早速研修作業に移る。
    まず「緯糸繰り」。糸繰り機に20綛の緯糸を掛け、木枠に巻き取る作業。次に「整経」。「はえもの台(整経台)」を使い、献上柄の縞部分の整経作業を行う。まず先生に経糸の持ち方、腕や指の動かし方の指導を受けた後、受講生が交代で作業を行う。その後、別途仕掛けが完了した機を使って織りの練習に入る。日頃各自が使用している機とは操作も織り方も大きく異なるようで、その違いに全員が戸惑っている様子。特にジャカードの操作には大半の受講生が四苦八苦している。

    緯糸繰り

  • 2013年10月8日(火)2日目

    午前9時半に工房集合。午前中は「経糸の巻き取り」を行う。事前に用意された整経済みの地糸を「巻き取り台」を使って「千切り」に巻き取る作業。3人1組で、①巻き取りギアで巻き取る担当、②機草を干切りと経糸の間に差し込む担当、③アゼ竹を使って経糸をさばきながらアゼを送る担当に分かれ、交代で作業を行う。午後から献上柄の華皿、独鈷を織り出すために必要な「糸アゼ(中アゼ)」を「棒刀」に取り付け、ジャカードに吊る作業を行う。1日目に続き、作業の合間に織りの練習。なかなかジャカード操作に慣れない様子。

    整経(手延)

    経糸を帯の幅に巻き取る

  • 2013年10月9日(水)3日目

    この日より機に経糸(地糸と浮糸)を掛ける作業に入る。まずは「糸アゼ通し」。糸アゼの中に華皿と独鈷を織り出すための「浮系」を通していく作業。事前に2人1組で糸アゼ通しの練習を行った後、本番の作業へ移る。まず機に経糸の巻き軸を設置し、3人1組で、①浮糸を巻き軸側から2本1組ずつ取って糸アゼ側に渡す担当、②浮系をもらって糸アゼの中に引きこむ担当、③その作業を確認する担当に分かれ、交代で行った。手の空いた者は2日目同様に織りの練習を行う。
    タ方、先生に糸アゼと「糸綜絖」について、制作に必要な道具の説明と実演指導をしていただき、受講生全員で糸アゼ作りを体験。

    糸アゼ作り

  • 2013年10月10日(木)4日目

    事前に準備された糸綜絖を機に設置し、地糸の「綜絖通し」を行う。設置された地糸の巻き軸から経糸2本1組ずつ取って、約2,500本の糸線絖に通していく作業。3日目の糸アゼ通しと同じ要領で3人1組で行った。綜絖通しの合間に織りの練習。全員が機自体に少しずつ慣れてきたようで、この日から博多織のリズム(打ち返し、三ツ打ち)とジャカード操作の際の足の力加減をより意識しながら練習に入る。夕方には献上柄をうまく織り出せる受講生も出てきた。

  • 2013年10月11日(金)5日目

    4日目に引き続き、綜絖通しを行う。またその合間に、初日に繰った緯糸20本をひとつに合わせる「ヨコ合わせ」をしながら、直接「管」に巻く「管巻き」作業を行う。糸のダレが出ないように慎重に行う。織りの練習では織りのリズムを覚えることに集中。ゆっくりではあるが博多織のリズムで織りができるようになってきた。

  • 2013年10月12日(土)6日目

    第1年次の最終日。5日目に続き綜絖通しと織りの練習を行う。織りの練習ではリズム良く織り進む受講生も出てきたが、概してジャカードを操作する際の足の力加減が難しいようで、継続して柄を織り出せるようになるにはもう少し練習が必要のようである。綜絖通しの作業はこの3日間で何度かやり直しが必要となり、皆さん疲労困憊の様子。最後に綜絖に通した経糸の「筬入れ」の作業を先生にやっていただき、それを見学。これにて機の準備工程が一通り終了した。
    この研修期間中は10月にもかかわらず、真夏日続きで、汗だくになりながらの作業となったが、受講生の皆さんは真剣に取り組まれ、第2年次の研修に向けて決意を新たに解散となった。

  • 2013年5月12日(月)〜17日(土) 一組目

    最終工程である製織に取り組む。課題は献上博多織の帯を1人1本織り上げること。工房の2台の機を使用するため、受講生は3組に分かれて2人ずつ受講する。この期間、受講生は織ることだけに事念できるよう、綿糸の管巻きや織っている最中の機の調整は先生が担当。
    1組目の初日、まず受講生の体格に合わせて機の踏み背の高さを調節し、仕掛けの手直しをする。そして2日間ひたすら織りの練習を続け、博多織の機(織りのリズムとジャガードの操作)に慣れてもらう。3日目から本番の製織作業に入る。当初は織り周違いの有無や、耳の付き方の不揃いを気にしてなかなか織りが進まなかったが、根気よく織り続け、4日目には帯の半分の尺数まで織り進む。最終日近くになると受講生2人の進み具合も違ってきたが、「各自の一定のリズムを止めないように心掛け、最後まで完成を目指すように」との指導で、無事に織り上げることができた。

    仕掛け

  • 2013年5月26日(月)〜31日(土) 二組目

    2組目の初日、機の調整を行った後、織りの練習に入る。比較的早く織りのリズムとジャカード操作に慣れてきたため、2日目の夕方から本番の製織作業に取り掛かる。2組目の研修期間中は、特に気温の変化が激しく、機の調子も大きく変わることがあり、その都度機の調整が必要となった。受講生には打ち込む際の音の変化などにも注意を払いつつ織り進めてもらう。その後小さな織りのトラブルも発生したが、適宜対処してもらいながら織り進み、最終日に織り上りあげることができた。

    繰り出し

  • 2013年6月2日(月)〜7日(土) 三組目

    前の組と同様に2日目まで織りの練習。3日目より本番の製織作業に入る。1人は機の調整が殆ど必要なく、最初からリズムよく織り進み、この調子が最後まで持続した。もう1人は小柄な受講生のため、椅子の位置や踏み背の高さなど、大幅な調整が必要となり、特にジャカードの操作には苦労をされたが、とにかくリズム良く織ることに専念してもらった。この組は最終日のスケジュールの関係で、他の組より半日短い作業日数となったものの、最終日までに何とか織り上げることができた。

    製織

  • 2013年6月7日(土)

    最終日に研修会の記録撮影のため、再び受講生全員が工房に集合した。先生より各自の帯の講評をいただいた後、感想などのインタビューに答える。全員が研修会の課題をクリアし、達成感と安堵の面持ち。最後に先生の挨拶をもって2年にわたる研修会が無事終了した。

  • 献上博多織は歴史ある日本の代表的な帯です。日頃主に着尺を織っているメンバー6名ですので、期待と不安を胸に博多の小川規三郎先生の工房に集まりましたが、先生はにこやかに迎えて下さいました。
    初年度は糸巻きから機掛けまでをします。献上博多織は6000から8000以上もの経糸を使い、その文様は仏具をモチーフにした独鈷、華皿の「浮け」と縞で構成されています。地、浮け、縞それぞれ別に整経します。綜絖は浮糸を通す糸アゼも含めすべて糸綜絖を使います。小川先生はこの糸アゼや地部分の糸綜絖もご自身で道具から工夫して作っていらっしゃいました。これはとても勉強になりました。整経した3つの千切が機に掛かりいよいよ綜絖通しです。私も日頃一部分糸綜絖を使っていますが、こちらではすべて糸綜絖です。18枚の棒刀に掛かった糸アゼ、四枚の地綜絖、多くの経糸と綜絖の糸との扱いに戸惑い緊張しました。その後筬通しを終え1年目の工程は終了です。
    2年度は2名ずつ3組に分かれて1週間で一人帯一本を織り上げるというとてもハードなものでした。ジャガードの機を初めて使うメンバーも多く、機に慣れる為の練習に一苦労でした。小川先生はじめ助手の脇山さん、瀧口さんには、機の調整をしていただいたり、打込みのリズム等、付きっきりでご指導頂きました。各々期間内に織り上がらないかもしれないとハラハラどきどきの連続でしたが、全員無事に織り上げることが出来ました。
    休憩時には小川先生から人間力を養う事の大切さや自然を感じ取る心、いろんな事に興味を持って楽しむ事等沢山のお話をして頂きました。又、小川先生自ら、お味噌汁を作ってくださったり、最終日には博多の街の散策に連れて行って頂き楽しい時間も過ごす事ができました。厳しい中にも学ぶ事の喜びを味わえたとても実の多い研修会でした。
    準備も含め小川先生、奥様、助手のお二人、そして工芸会関係各位の皆様には大変お世話になりました。この様な機会を与えて頂いた事と共に心より感謝申し上げます。