「螺鈿」伝承者養成技術研修会(2007 - 2008 年)

北村昭斎先生による重要無形文化財
「螺鈿」の研修会

活動報告

  • 2007年11月19日(月)1日目

    研修全体についての説明に続き、螺鈿技法について歴史的、技術的な事など講義を受ける。螺鈿は素材の美しさに負うところの大きい技法なので、材料を活かす事を考えるようにアドバイスを受け、実習が始まる。
    <彫込式螺鈿手板(以下彫)1)>
    あらかじめ用意された図案で、どの部分にどの貝を使うのか考える。夜光貝は様々な色調の
    輝きを放つこと、白蝶貝は白を基調にしたメタリックな印象、黒蝶貝は濃淡が美しいが大きな文様は取り難いなどの貝選びに関する説明を受けた上で貝を選ぶ。
    <彫2>
    紙にコピーした図案をパーツごとにナイフで切り離して貝の上に糊で貼り、その線に沿って糸鋸で貝を切っていく。
    <彫3>
    各自で漆下地をして黒漆で中塗りまで出来た手板に切った貝を文様通りに糊で仮貼りする。
    <埋込式螺鈿手板(以下埋)1>
    各自で考えてきた図案を先生に見て頂き、注意点などについて指導を受ける。

    受講者の作業風景(北村昭斎工房)

    螺鈿下図に従って厚さ1mmの白蝶貝を糸鋸で切る

    下図通りに切られた白蝶貝と黒蝶貝

  • 2007年11月20日(火)2日目

    <彫4>
    仮貼りした貝の輪郭に沿って針を使って毛描き(引っ掻いて漆塗りの面に傷を付ける)を行う。
    <彫5>
    毛描きの線に沿ってナイフを使って漆塗りの面を彫り込んでいく。
    午後からは春日大社(奈良市内)にて国宝蒔絵の筝(復元模造)·国宝金地螺毛抜形太力を、正倉院事務所(奈良市内)で正倉院宝物螺鈿箱(復元模造)を見学する。先生から詳しい解説を聞きながら、間近で作品を見せて頂き、厚貝螺鈿に対する理解を一層深めることが出来た。

    春日大社宝物殿にて見学

    正倉院事務所にて見学

  • 2007年11月21日(水)3日目

    <彫6>
    彫り下げた凹みに麦漆(小麦粉と生漆を混ぜた接着に用いる漆)で文様の貝を貼っていく。貝の周囲に隙間がある場合は錆漆(砥の粉と漆を混ぜ合わせた細かな下地)で埋める。
    <埋2>
    紙にコピーした図案をナイフで切り抜いて貝の上に糊で貼り、その線に沿って糸鋸で貝を切っていく。

  • 2007年11月22日(木)4日目

    <埋3>
    各自が糊漆で布を貼り、布目に漆下地を擦り込んだ状態まで進めた手板に糊を混ぜた麦漆で文様に切った貝を貼る。
    <彫7>
    砥石で貝の上を研いで漆塗り面との高さを揃えていく。この後も漆を塗り重ねるので、その厚みを考慮しながら研ぐよう指導を受ける。研いで高さが均一になったら、全体に刷毛で黒漆を塗る。

  • 2007年11月23日(木)5日目

    <埋4>
    下地を付ける。貝の際とその他の広い面とで下地の粒子の細かさを変え、毛の短い筆などで擦り込むように付けていく。
    <彫8>
    黒漆が乾いたところで、貝の上に塗られた漆を弾力のある金属の箆で剥がす。
    今後の進行について先生から指導と確認を受けて、初年度の研修は終了した。

  • 2008年6月16日(月)1日目

    各自で進めておいた手板と小箱の進行状況を確認。
    <彫9>
    各自で既に艶上げまで進めて来ているので、最後に文様の上に刃物を使って毛彫り(線を彫る)を施して完成。
    <埋5>
    貼り付けた貝の厚みと同じ高さまで下地を付けているので、炭粉や砥の粉で研磨して、この後の漆塗りの厚み分だけ下地を低くする。
    <小箱>
    各自が持っている専門の技法と螺鈿を組み合わせて加飾を構成する。先生のアドバイスを受けながら今まで手板制作で経験した工程を参考に作業を進める。

  • 2008年6月17日(火)2日目

    小箱の制作工程などでそれぞれ差があるので、各自で作業を進める。
    <埋6>
    黒漆で中塗りを施す。

  • 2008年6月18日(水)3日目

    午前中、大和文華館(奈良市内)を訪れ、本阿弥光悦作と伝えられている重要文化財沃懸地青貝金貝蒔絵群鹿文笛筒と、李朝時代の螺錨葡萄支衣裳箱を間近で見学する。午後から貝加工工場(大阪府和泉市)に移動し、具殻から板状の貝に加工するところを見学する。

    大和文華館にて見学

    貝加工工場の見学

  • 2008年6月19日(木)4日目

    <埋7>
    中塗りの漆面を炭で研ぐ。平らな面が平滑になるまで漆塗りと炭研ぎを繰り返し、最後に上塗りを施す。
    助手の北村繁氏の指導で、貝の表面に文様を毛彫りするための刃物を製作する。材料となる使い古した鑢などの先の部分をガスバーナーで熱して柔らかくし、鑢を使って刃の形に削っていく。形が出来たら再びガスバーナーで熱して焼入れ。
    砥石で刃を整えて完成。

    小箱制作 貼り付けた貝を研ぐ

  • 2008年6月20日(金)5日目

    午前中、各自で工程を進めて作業は終了。後は各自で仕上げる。それぞれの手板、小箱を前に先生から講評と総括。助手の方々もそれぞれの感想を述べられた。受講者もこの研修で学んだ事、得たものなど感想を話し合った。

  • 2008年10月31日(金)6日目

    各自で仕上げた手板と小箱を持ち寄り、先生に講評を受けた。

    完成した手板と進行中の小箱

  • 天高くさわやかな空の広がる奈良公園近く、静かな古い町並の一角に北村先生の工房は有り、少し張り詰めた気持ちで門をくぐりました。
    この度は研修にあたり、奈良の歴史、文化、伝統にふれられる様、北村先生のお計らいで、正倉院、春日大社、大和文華館で間近に重要文化財作品を拝見し、学芸員の方から丁寧に説明いただきました。いにしえの文化の華やぎを感じさせるもので、どの様な方が何を思って作られ今、存在しているのか、遥か遠くの時代に思いを馳せ又、漆工芸の奥深い芸術性を感じました。
    研修は、図案に合った厚貝を選択し、組み合わせる。糸鋸は「引き音を聴きながらリズミカルに手順良く」なのですが、糸鋸切ってしまう事数知れず。少々無心に座禅を組み悟りを開くがごとき思いで作業を進めました。貝と貝の間をピッタリと合わせる「摺り合せ」はヤスリをかけ調整する「物事の摺り合せ」の語源とも聞き、合いそうで合わずジグソーパズル的でもあり、皆さん苦戦している様子でした。摺り合せた貝を「彫込式」の場合は予め1ミリ厚さに下地をした物を布目が見える所まで彫り込み嵌め込む。際を埋め処理をする。「埋込式」は布着せした板に貝を貼り下地を三回ほど付け、ほぼ平に埋込みました。薄貝とは全く異なる工程で、力強く素材の持ち味を出す螺鈿の原点の思いをしました。仕上げに毛彫りを施し表情を付け命を吹き込む感じがいたしました。春日大社で拝見した「国宝沃懸地猫雀文螺鈿毛抜形大刀拵」は猫が雀を狙っている様子が毛彫りによって生々と表現されており又、北村先生とお父様が復元模造された「山水蒔絵琴」の草花文様にも施されており生命感を感じました。
    厚貝螺鈿は北村昭斎が長年研究されて来たもので、多くの知識、経験、技術を私どもに伝授、ご指導下さいました。研修生皆がこの度の研修で得たものを今後の制作に活かしていきたいと思っております。深く感謝申し上げます。技術指導の岸本さん、山本さん、北村繁さん研修生の皆さんとも、親しくさせて頂きました事大嬉しく思いました。又、奥様にも何かとお気遣い頂きました。この様な機会を与えて頂きありがとうございました。