「竹工芸」伝承者養成技術研修会(2006 - 2007 年)

早川尚古齋先生による重要無形文化財
「竹工芸」の研修会

活動報告

  • 2006年11月6日(月)1日目

    これから行う研修内容の説明を受け、近くにある下鴨神社に全員で参拝。後、研修受講にあたっての意見交換を行う。

  • 2006年11月7日(火)2日目

    竹の下拵え、表皮を削る。早川家は代々竹の表皮は小刀で削るとのこと、研修生助手全員表皮は磨き庖丁を使っているため初めての経験となる。水平の台の上を小刀を動かし、節間の半分ずつ方向を変えて進めていく。先生の実演の後、各自削ってみるが小刀が安定せず悪戦苦闘。先生の小刀を借りて使ってみるとうまくいくことから、刃物が重要との結論に達する。小刀で削った方が表面の艶がいいため、艶出しの工程において差が出るとのこと。午前中この作業を繰り返す。午後からは、竹割り、小割り、厚みぎめと進む。ここでも裏面削りは小刀できめるため、研修生はまた苦労することとなる。幅ぎめ、面取りと進み下拵えを終える。

    竹の下拵え、表皮を削る。研修生は通常、磨き庖丁で行っているが、早川家で代々伝わる小刀で削る方法を習う

  • 2006年11月8日(水)3日目

    組技法「矢羽根文様」の習得。平竹幅4ミリ厚さ0.8ミリ長さ10センチを10本用意する。中心に印を付け、灯油ランプ「ホヤ」の上部に竹を置き、全体が柔らかくなった時点で一気に曲げる。曲げる角度は平仮名の「く」の字程度、両端は表皮部分が上にくるように、中央が盛り上がった状態の時水に付けて、形を留める。10本曲げた後、山になった中央に、0.8ミリのドリルで穴を開ける。同様に裏に当てる平竹にも6ミリ間隔に穴を開け、極細の籐で矢羽と裏に当たる竹とをかがって留めていく。この時表に籐が出ないようにするのが重要。さらに平竹を井桁に組み、矢羽の両端を留める枠を作り、両端を籐でかがって留める。枠から出た部分は鋏で切り、これで組み見本が完成。

    組技法「矢羽」の習得。灯油ランプ「ホヤ」の上で材料を柔らかくし、「く」の字に曲げた矢羽竹を作る。

    組技法「矢羽」の習得。「く」の字に曲げた矢羽竹に穴をあけ、極細の籐でかがり留めをする。

  • 2006年11月9日(木)4日目

    組み技法「切込透文様」の習得。平竹幅6ミリ厚さ1ミリ長さ30センチを8本用意する。まずグラフ用紙に10ミリ等間隔9本、30センチ以上の縦線を引き、中央に中心線を入れる。縦線の間に1から8までの番号をつけ、その線上に自分が表したい透模様をデザインする。用意した竹をその図面の上に、中心線を合わせて置き、透彫りを入れる位置を決定。図面と同じ通し番号を竹にも付けておく。刳る部分の形を統一するため、竹で型を作り、その型をさきほど位置を決定した竹に合わせ、細いエンピツで写し取り、小刀で刳っていく。先の細い箇所は幅ギメを使い同じ幅にする。裏に当てる3本の竹を用意し、番号順に中央をかがる。中心に当てる竹は2枚に剥いでおくと籐の端の処理に便利。

    組技法「切込透文様」の習得。透文様の竹を作るため、表現したい透模様をグラフ用紙にデザインする

  • 2006年11月10日(金)5日目

    前日の続き、透模様上下のかがりを留め完成する。各自仕上がった作品の講評を受ける。この日が1年次の最終日ということで、翌年、ここで習得した技法を使い、作品を1点制作してくるとの課題が出される。

    組技法「透文様」の修得。透彫りを入れた竹を組み合わせて籐でかがり留めを行う。

  • 2007年11月5日(月)1日目

    籃の着色。一同裏手にある庭に移動。早川家も昔は梅汁を使用したとのこと。梅汁とは、紅梅の芯の赤い部分を枯らしてから煮出した物。現在では入手困難のため化学染料を使っている。煮沸した染料に見本の籃を入れ、柄杓でかけながら色斑ができないよう回転させる。青竹の場合はあらかじめ油抜きをしておくようにとか、曇りの日に行う方が色を判別しやすいとの注意を受ける。色は赤と黒の染料を混ぜて使用。媒染、定着液は使用しない。30分ほど染色した後、余分な染料を落とすため丁寧に水洗い。そして一日かけて自然乾燥させる。
    翌日、艶出しに使うイボタ蠟の用意。木綿の布に、イボタ蠟を広げ包んだタンポンで布に摺り込んでいく。残ったイボタ蠟は元に戻し、布を石油ストーブの上にかざし蠟成分を布に浸み込ます。蠟が溶けると少し変色するので、それを目安とする。

    着色の実習。煮沸した材料に藍を入れ、柄杓でかけながら着色する。一日かけて自然乾燥させた藍にブラシをかける。

  • 2007年11月6日(火)2日目

    籃の艶出し。前日染色をして乾燥させた籃を、硬く水気を絞った布で、色が落ちないように丁寧に拭く。これほど念を入れるのは、花を生けた時水が飛び、籃から染料が浸み出さないためである。これは籃に漆をかけないことから、特に注意しているとのこと。さらにブラシをかけ、前日に用意した、イボタを浸み込ませた布で表面を磨くと艶が出てくる。漆をかけない時は、この作業が最後の工程となる。午後からは課題作品を持ち寄り意見交換、先生の講評を受ける。テーブルを出し一人ずつ作品を提出、半分仕上がっている人、漆まで塗って完全に仕上がっている人、作品も盛籃から花籃までバラエティにとんだ作品が集まった。先生から講評がなされ、主に籐かがりの位置の重要性、籃全体から受ける透かしがしめる空間のバランス、外縁の太さなど細かい点まで指導が行われた。今までの研修会では一つの同じサンプルを作ることが多かったが、今回は自由な発想で作品に挑めたことが、良い結果につながったとのこと。

    藍の艶出し。木綿の布にイボタ蝋を薄く広げ布に摺り込む。石油ストーブで布を温め蝋成分を布に沁み込ます。この布で藍の表面を磨く。

    課題作品の意見交換。組技法「矢羽」及び「透文様」を取り入れた各自の課題作品については意見交換と先生から講評を受ける。

  • 2007年11月7日(水)3日目

    籃の銹付け。最近は銹付けした作品は少なくなったが、早川家に伝わる銹付けを教えていただいた。まず乳鉢で砥の粉を細かく磨り潰す。それに水を加えシャバシャバ状態にする。さらに膠を溶いたもの、墨汁を加えその液を刷毛で籃全体に塗り付け、後は自然乾燥、乾いた後籃を磨けば完成となる。研修生からも、松煙、ベンガラ、カシューなど使った銹付けなどの話が出て、全国的にみると多彩な銹付けがあることがわかる。
    ここまでで研修予定が終わったので、先生よりこれまで習った技法を自由に自分の作品に取り入れて活かしてくださいとのこと。研修生もこれまでの熱心な指導に感謝して終了となる。

    藍の銹付け早川家に伝わる銹付けで硯の粉を握りつぶして水を加え、溶いた膠と墨汁を加え刷毛で塗りつける。

  • 2007年11月8日(木)4日目

    最終日。松下美術苑を見学する。

  • 秋晴れの青空の下、亀の形をした飛び石をピョンピョンと越えて高野川を渡る。それが、私たち受講生7名が早川先生の工房へ向かう毎朝の光景でした。
    五代に亘って受け継がれてきた門外不出の一子相伝の技。さらには先生独自に考案された「矢羽根文」や「切込透」と言った組の技法。今回、それ等を伝授していただけることに大いなる興味と期待、それに感謝の念を持って参加させていただきました。
    その実際の内容は想像を遥かに超えて充実したものでした。教えて頂く技の一つ一つが初めて見る事聞く事ばかりと言っても過言ではなく、驚きと感動の連続。そんな中、初めて経験した早川家独自の小刀を使っての表皮削りの実技では当然のことながらなかなか思う様には行かず冷や汗たらたら。また、二年次への宿題となった作品制作は、同じ技法を使いながらも実にバラエティーに富んだ作品が集まり、先生のご講評と共にこれも実に勉強になりました。その他にも籐の作り方や縁かがり、染色やイボタを使っての艶出し、更には刃物の研ぎ方まで、竹の人間垂涎の技の数々を懇切丁寧にお教え頂いた。言うまでもなく、教えて頂いた技術が一朝一夕に身に付くものではありませんが、それら総てが受講生一同にとって大きな財産となったことは間違いありません。
    ただ、そのこと以上に、もしかしたら私にとっての最大の収穫は「真似をした等と言わないから、今後自分の仕事に使えることがあったら使ってくれたらいい」とおっしゃった早川先生の心の広さと気さくな人柄、そして何より、人としての大きさに触れることが出来たことかも知れません。
    私は今、自らをも含めた受講生それぞれが、今回の研修で得た技と知識を今後の創作活動に生かし、さらには、次世代へその技を伝えていくことこそが英断をもって秘伝を公開して下さった早川先生への最大の恩返しになるのではないかと思っています。と同時に、短期間ながら同じ釜の飯を食った仲間とはこれからも刺激をし合い、良い形で交流が続くことを願っています。
    最後に、先生は勿論のこと、大変お世話になった奥様、そして谷岡さん上野さんにこの場を借りて改めて御礼申し上げます。有難うございました。