「銅鑼」伝承者養成技術研修会(2012 - 2013 年)

魚住為楽先生による重要無形文化財
「銅鑼」の研修会

活動報告

  • 2012年9月6日(木)1日目

    今回の研修では小さな銅鑼を制作する。講師の作業説明が済んでから、各自銅鑼のデザインを紙に描き、挽き型用の鉄板と中子を削るためのヘラを作成。及び中子用のモミガラ入り粘土で中子作り。
    中子の乾燥期間がないため、事前に用意した乾燥済み中子を使い、各自のヘラで挽き型の鉄板に合わせて削る作業。

    型挽き用の鉄板制作

  • 2012年9月7日(金)2日目

    前日に形を整えた中子を炭火で素焼き。講師の手本作業を見たあと、一人ずつ型を挽く作業。普段と違いもあるためか苦戦している様子。手早く回しながら形を作る。
    型に黒味を塗布して炭火で乾燥させ、欠けた部分を補修して作業終了

    中子素焼き

  • 2012年9月25日(火)3日目

    中子の高台部分に切り込みを入れ湯口を作る。松ヤニと木ロウ(季節により調整)を鉄ナベで溶かし、適量を各自取ってよく練る。木の板の上でメン棒で1.5〜2mm程度に薄く均一にのばし、焼きゴテで気泡を潰す。均一にのばしたら数種類の焼きゴテを使用し各パーツの型紙の大きさに切る。切ったロウはダレないように水を張ったパッドに各自入れておく。

    中子挽き

  • 2012年9月26日(水)4日目

    切ったパーツの銅鑼の縁の部分の肉厚をもたせるため、側面パーツに棒状にしたロウを乗せてコテで成形。コテで溶かしながら指で整える。指先の感覚で滑らかに仕上げる。上面2枚側面3枚各パーツの数だけ作る。ロウを貼る前の中子には接着用のロウを薄く塗っておく。

  • 2012年9月27日(木)5日目

    中子にロウを貼る作業。炭火を熾し鉄ナベに湯を沸かす。ロウのパーツをぬるま湯で柔らかくし、中子とロウの間の空気を抜きながらズレないように貼っていく。パーツの境目を焼きゴテでならしながら指で整える。
    焼成時に型ズレしないための型持ちを同じ地金を割って入れる。地金の流れをよくするための層を作ったあと、綿を混ぜ込んだ土を均一に塗る。水分を吸わせるため鋳砂で覆い一晩置く。

    中子にロウを貼ったところ

  • 2012年9月28日(金)6日目

    鋳砂を取り除き、土とモミガラ混合の荒土を適度な厚みに塗る。塗る厚みにムラがあったり、塗りすぎたりしないよう指導(時間の都合上、研修生の作業はここまで)。
    1回目の荒士が乾いたら補強用の針金をかけてから2回目の荒土を塗り、それが乾いたらひっくり返して裏面にも荒土を塗って型完成。

  • 2013年9月5日(木)1日目

    吹きの準備作業。炭とコークスを1.5〜2cm角程度に割る。みんな顔は真っ黒に。各自自分の作品がわかるように型に印を付けて銅鋼の型を並べ、焼成時の炭が入る隙間を均一になるように耐火レンガを組む。地金溶融の炉の掃除や坩堝などの道具の確認。

  • 2013年9月6日(金)2日目

    吹きの日。早朝5時集合。塩を振って面持ちも新たに仕事場へ入る。炭火をブロワーで風を送りながらスコップで混ぜ一気に熾す。火が熾きたら種火をスコップで前日作った窯へ均一に入れ、型がズレたりしないように注意しながら上から炭を入れていく。型の大きさによるが約4時間焼成する。その間こまめに火加減を見ながら地金を溶かす。坩堝内のゴミを取ったり、炉と坩堝の間にコークスを足す作業。
    型が焼けたらレンガを崩し型を一つずつ火ばさみで取り出す。藁製のミットで型を受け取って静かに置いた後、軽く叩いてゴミを落とし、冷まし土を塗る。鋳込みの湯の注ぎやすさや湯流れを考慮して傾斜をつけて並べる。ゴザで窓を塞ぎ、暗闇にして湯口を覗き型の冷め具合を計る。
    ここからは一瞬も気が抜けないため一番緊張する瞬間。炉からトリべに湯を汲み各自注湯。助手はトリべに藁灰を乗せたり型を叩いたり油を注ぐ係。全ての型に湯を流し終わったら火の色を見るため、閉めていた窓を開放し、鋳込み完了。
    この後、型がある程度冷めるのを待って型を割る。不安と期待で皆神妙な面持ち。ほぼ全て失敗無く湯が入っていたので安堵。取り出した銅鑼の湯道やバリを金ノコ等で切り、七輪に移した炭火で1個ずつ赤めて水槽で急冷して鈍す。

    鋳込み作業

    型を壊して本体を取り出す作業

  • 2013年9月24日(火)3日目

    前日吹いた銅鑼を各自できる限り削ってくるよう指示。この日も引き続き削り作業。
    削るコツを飲み込むまで講師の指導。ロクロは1基しかないので一人ずつ順番にロクロで削る。他の人は空いた時間で銅鑼架けを作成。

    削りと磨き

  • 2013年9月25日(水)4日目

    この日も削りと枠作り。講師による手直し指示。削り終えたらペーパーをかけ凹凸を取り除く。銅鑼架けも完成。

  • 2013年9月26日(木)5日目

    鋼鑼を枠に吊るした時のバランスを考慮しつつヒモを通す穴をドリルであける。炭火で焼き入れした後、ペーパーをかけて皮膜除去。バチを作成。

  • 2013年9月27日(金)6日目

    残った微細な穴などを金漆で補修したのち炭火であたためながら漆の焼付け作業。かぶれないように念のため薄いゴム手袋着用。イメージ通りの色になったら最後にロウを引いて冷まして完成。
    時間的制約で一部こちらで用意する箇所もあったが、これで全ての工程終了。
    どの業種にも言える事ですが、特殊な仕事であるだけに作業に必要な道具作りも仕事の内と言えます。
    当方の作品制作工程においては、古来の道具や設備を使用する部分も多く、湯の温度や型の焼きムラなどの微調整が厄介です。諸条件の重なりが悪いとしくじる事も少なくありません。鋳込みの作業も経験と勘に頼る所が大きいのですが、今回ひとつも大きな失敗をすることなく鋳込みが上手くいったのは感慨深いものがあります。
    研修者の皆さんは高い技術を持つ方ばかりでしたので、呼吸やタイミングが乱れる事もなく、スムーズに鋳込み作業を進めることができました。

    漆の焼き付け着色

    仕上げのロウ引き

  • 平成24年より2カ年計画で、人間国宝魚住為楽先生より12日間に渡る銅鑼作りの研修を受講しました。石川県金沢市長町にある魚住工房に集まった参加者は6名。まず始めは中子作り。粘土に籾殻を混ぜて練り込んでいるので火にかけると籾殻は灰になり、鋳込む時のガス抜きを良くする働きがあるとのこと、同じく鋳造で茶釜を制作している私にとってこれは大変参考になりました。次に6名それぞれが拵えた木型で型挽きをします。木型を回しながら目の細かい砂(泥)を中子にかけ表面を整えます。事前に中子を素焼きしていますが、時間をかけると中子がどんどん冷えていき思うように挽けず、私達受講生は皆苦労しました。蠟貼りは均一の厚さに伸ばし表面に貼る、銅鑼の厚みを決める重要な工程です。最後に外型となる土や砂をかけ鋳型が完成した所で初年度が終了。制作のお手本を示してくださる魚住先生の動作はキビキビとして無駄がなく、長男の安信さんの的確なサポートもあり、親子の真剣な表情に私達も気が引き締まる思いでした。
    丸1年が経ち、いよいよ鋳込みです。まず型をじっくり焼いて脱蠟し、同時に地金となる砂張を坩堝の中で溶解させます。嵐の前の静けさでしょうか。この日の天気は穏やかで風も心地よく、それがかえって緊張感をより高めてくれました。鋳込みの際は、先生のご家族も総出で砂張に挑まれ、私達もそれぞれの役割に集中しいざ、正に一発勝負。数十分後、鋳型を壊して銅鑼を取り出します。受講生全員の作品が成功したのを確認した瞬間、魚住先生の表情がパッと明るくなり、そして深い安堵のため息をつかれていたお姿がすごく印象的でした。仕上げの工程に入り、完成に近づくにつれ前日のあの気迫に満ちた先生とは打って変わって、銅鑼を慈しむような表情で作業に向かわれ、制作工程一つ一つに適した心構え、心の持ちようを学びました。先生から教わった多くの知識と技術、そして何より仕事に対する情熱と誠心誠意な姿勢に私達が何を伝承しなければならないか、その真意がはっきりと解りました。
    ご伝授下さった魚住先生、助手の安信さん、ご家族の皆様に私達一同、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。