「木工芸」伝承者養成技術研修会(2011 - 2012 年)

村山明先生による重要無形文化財
「木工芸」の研修会

活動報告

  • 2011年12月4日(日)1日目

    午後より研修日程の説明があり、研修で制作に使用する欅材(9寸×9寸×1寸1分)が配布される。また荒彫り等に使う丸鑿、切り出し、裏研ぎ用の砥石が支給される。砥石の説明等を受けながら、丸鑿の裏研ぎ用低石を丸棒状に加工し、裏研ぎの実習に入る。また材料の中心の出し方、中心線の引き方を教わり、村山先生制作の盆を見本として、各面の流れ、構成、制作意図、技法、また盆等木裏から彫る理由についての講義を受ける。また四分の一の型紙の作り方を教わり、隅切盆の基本形を基に各自のイメージで型紙を作り初日を終了する。

    先生の作品を使っての解説

  • 2011年12月5日(月)2日目

    午前、支給された道具の手入れの仕方を教わり、刃物の表を研ぐ砥石が支給され、研ぎ方を先生の実演を交え手解きを受ける。受講生の中には普段丸鑿を使わない人が多く、平面の砥石で丸鑿を研ぐ作業に、手の角度がなかなか決まらず悪戦苦闘する。午後、盆の深さと内側斜面との相互関係について、図式を示しながら講義を受ける。また「型紙を作りながら完成のイメージを摑む事」との指摘があり、各自型紙の修正等を受けた後、材料に墨付けをする。順次見込み(底の部分)の荒彫りを始め、作業途中、「鑿を叩く音で刃先の位置を知れ」、また「無い所は削れんから慎重に」 と指導を受ける。

    型紙制作

    丸鑿の表研ぎ

  • 2011年12月6日(火)3日目

    前日に続き盆の荒彫り。墨付けした見込み部分に当たる線から垂直に鑿を下ろし、その都度深さのチェックをしながら慎重に彫り進む。また、刳物に使用するさまざまな道具を拝見しながら説明を受ける。

    課題作品荒彫り

  • 2011年12月7日(水)4日目

    盆の見込みはおおよその形になり、さらに鏝鑿(こてのみ)等を使い丁寧に彫り進める。見込みが出来た後に、内側斜面を彫り始めるが、随時先生から形態について、特に「面と面が交わった所に境界線が出来る。そのような感覚で彫り進めるように」と注意を受ける。
    また見込み部分を傷つけないような技術的指導も受ける。午後には盆の裏面の削り方を教わり、各自持参の鉋などを使い作業を進める。

  • 2011年12月8日(木)5日目

    全員外側の削りに入る。内側と外側の傾斜面における相互関係、また底の厚み、隅の面の大きさ、周り縁など、全体のバランスを見越しての詳細な説明を聞く。また「どこか一部手直しをすると、全体の面の修正が必要になってくる」事等、刳物の三次元的な仕事の難しさを教わる。その後、底裏面の透き方、畳み擦りの説明、素地ペーパーの当て方を教わる。

    課題作品の仕上げ指導

  • 2011年12月9日(金)6日目

    各自課題の隅切盆も荒いなりに仕上がり、講評を受け、各自家に持ち帰り次年度までにペーパーを当て素地を完成させる事とし、研修会第1年次を終了する。

  • 2012年10月21日(日)1日目

    午後より拭漆の工程見本となる手板制作の手順説明を受け、栃、栓、梯、栗、楢、楓、黄蘗、欅の材から、各自1種類を選び手板を作り、刻苧の溝を彫る。拭漆作業の基本である研ぎについて、水研ぎと空研ぎの違いの説明があり、今回は時間に制約があるため、主に空研ぎで仕上げる事となる。180番のペーパーを素地に当て、1回目の漆塗り(ステ摺り)を行う(以後漆を塗る事を摺りと言う)。漆が乾くまでの時間に刻苧作りをする。小麦粉、米粉、胡粉、弁柄、漆を混ぜ、それに60番木粉を加える。手板が乾いた後溝に埋めるが、「一度に厚く埋めると表面だけ乾いて中が乾かないから、少しずつ埋めるように」と指摘される。

    手板漆塗り

  • 2012年10月22日(月)2日目

    前日埋めた刻芋を刃物と240番のペーパーで平滑にし、180番でのペーパー傷を取っていく。その後摺りをし、乾燥後さらに細かい木粉120番の刻芋で溝を埋める。

  • 2012年10月23日(火)3日目

    手板を320番のペーパーで空研ぎをする。その際、木の繊維を殺さないよう軽く研ぐ事や、斑が残らないようにとの注意を受け、研ぎの後摺りをする。また、塗りに使う箆の話や拭漆の色々な仕上げ方を聞く。「拭漆作業での研ぎは180番、280番、320番で形を作り、400番、500番で肌を整える。毎回確実にその時にできる作業を完璧にこなさないとだめ。次の段階で直すという考えをしてはならない。また仕事というのは作業の段取りが大事で、手順を考え定盤や道具の配置に気を付けなければならない」と教授される。漆が乾く間を見て前年度の隅切盆を講評していただき、その後砥の粉、水、漆を混ぜ日止めの為の錆を作り、順次錆付けを行う。 手板を320番のペーパーで空研ぎをする。その際、木の繊維を殺さないよう軽く研ぐ事や、斑が残らないようにとの注意を受け、研ぎの後摺りをする。また、塗りに使う箆の話や拭漆の色々な仕上げ方を聞く。「拭漆作業での研ぎは180番、280番、320番で形を作り、400番、500番で肌を整える。毎回確実にその時にできる作業を完璧にこなさないとだめ。次の段階で直すという考えをしてはならない。また仕事というのは作業の段取りが大事で、手順を考え定盤や道具の配置に気を付けなければならない」と教授される。漆が乾く間を見て前年度の隅切盆を講評していただき、その後砥の粉、水、漆を混ぜ日止めの為の錆を作り、順次錆付けを行う。

  • 2012年10月24日(水)4日目

    錆付けした面を400番で研ぐ。斑が出来ないよう320番のペーパー傷を取っていく。「作品作りの時は難しい所から研ぎをしていくように」と指摘がある。その後摺りをし、綿布で拭きあげる。乾くまでの間に今年度作品の材が配られ、各自それぞれの形を考えながら型紙を作る。先生に批評を伺いながら荒彫りを始める。
    夕刻、午前に塗った漆の上にもう一度摺りを重ねフクリン(薄手の毛織物)で拭きあげる。

    自由作品荒彫り

    自由作品の講師実演

  • 2012年10月25日(木)5日目

    前日の塗面を500番で水研ぎをする。その際、研ぎ過ぎて白くならないように注意を受け、その後摺りをして綿布で拭きあげる。また自由制作の荒彫りも並行して進め、底の面を彫る時は上面と平行に鑿を運ぶ事、逆目にならないよう木の繊維に直角に鑿を運ぶ横ズリの仕方を学ぶ。夕刻再び摺りを重ねる。

  • 2012年10月26日(金)6日目

    炭粉の作り方を教えてもらい、炭粉で水研ぎし、その後摺りをする。引き続き素地作り。夕刻摺りを重ねる。

  • 2012年10月27日(土)7日目

    最終日午前、もう一度炭粉で研ぎ、摺りをする。その後第2年次作品の出来上がった所までの状態を講評していただき、今回の研修会を終了する。

    自由作品の総評

  • 平成23年より人間国宝の村山明先生の京都府宇治市にある自宅兼工房にて研修を受講した。参加者は普段から刳物を中心として制作している方は勿論、挽物や私のように指物をやっている方など、7名が集まった。
    1年目は、主に欅板による「隅切盆」の制作が中心となった。講義は型紙作りから始まり、この最初の作業がとても重要な事とおっしゃられ、慎重に作成した。その後、丸鑿の研ぎ方では「振り研ぎ」という独特な研ぎ方を教えていただき、実際に「刳り」の実習に入った。私の作業は、なかなか思うように進まず、道路工事に例えるなら、小さなスコップで恐る恐る穴をあけている感じに対して、隣で作業されていた先生は巨大な重機で工事しているようで、音も、削りカスも違った物であった。私は先生が作業に取りかかる前に、木の中の見えない所まで思いを巡らせ完璧なる三次元イメージを創りあげてから作業に入っていらっしゃる事を感じることができた。2年目は手板による「拭漆」の実習と自由課題の「刳物」の制作が平行に行われた。「拭漆」の実習は先生のお手本を見て、研ぎ・塗り・拭きの作業をおよそ20余り行った。先生の作業はとても素早く、丁寧に行われ、無駄な動きも全くなく、塗り台周りの道具の位置は、いつも同じで固定化され、お茶の作法のように感じられた。自由課題の制作では、実際に先生の作品である、縁部がねじれて見える「欅拭漆盛器」や長半円の稜線が表れる「欅拭漆舟形盛器」を前にして、面や線の説明を受けた。作品から「躍動感」や「浮遊感」、「静寂感」や「重厚感」が感じられるのは、その面・線の取り方次第でこれらのイメージが、最初の段階ですでに周到に完成されている事に驚かされた。
    この研修会に参加して、自分にとって新しい技術に触れられた事は、これからの作品作りに於いて発想の幅が出来たと考えると同時に、作り手である私自身が、もっと細部までに細かな神経を配るとともに、創造的造形意識の強化の必要性を認識した。
    最後にどんな事にも懇切丁寧に教えてくださった村山先生、助手の須田先生、宮本先生に感謝申し上げます。