「白磁」伝承者養成技術研修会(2011 - 2012 年)

井上萬二先生による重要無形文化財
「白磁」の研修会

活動報告

  • 2011年9月1日(木)1日目

    研修者各自午前9時半に井上萬二窯に集合、工芸会文化財保存事業担当の鈴田滋人氏も同席し、受講者に自己紹介をしてもらう。
    その後すぐに九州陶磁文化館に移動して館長の鈴田由紀夫氏より有田磁器の歴史の講話、続いて佐賀県窯業技術センタ一所長の勝木宏昭氏より陶土・釉薬などの化学的分析結果や特性などの講義をして頂いた。
    午後、講師宅で昼食をとりながら今後の研修内容の説明を受け、研修場所に移動して翌日より使用する「押しべら」や作品の大きさをはかる「トンボ」の制作、陶土の準備をしてもらう。

    カナと呼ばれる削る道具の制作

  • 2011年9月2日(金)2日目

    午前8時には研修場所の掃除を行い、9時より研修の開始。各自轆轤制作用の土の調整、磁器の土こねをしてもらい、難しさを体験。
    規定の大きさの皿を制作するために講師より作り方の指導を受ける。作っては壊し土こねをしては作るこの作業を繰り返し、上手く出来たものは壊さないで残してもらう。夕方食事会を兼ねた反省会。

  • 2011年9月3日(土)3日目

    決められた大きさの皿を30〜40枚作る。普段自分が作っている方法ではなく、磁器の轆轤技法に基づいた作り方を研修。轆轤の回転が違う等、戸惑いも多いようだった。

  • 2011年9月4日(日)4日目

    各自作った皿を乾燥させ削り仕上げるために、皿が乾燥するまでの時間を利用して削りカンナの製作を行う。次にあらかじめ用意をしておいた「ハマ」を使って削りの中心を出す技術の研修を行う。これが出来ないと皿を削り上げる事が出来ない。各自苦労しながらであったが、ある程度出来るになった人から自分で作った皿の削りに入る。

    中心を削り出すためにハマを使っての稽古

    のべべらを使って大きめの皿の制作

    押しべらを使って皿の中の形を整える

  • 2011年9月5日(月)5日目

    各自作った皿の削り仕上げをすべて行う。
    磁器の削りの重要性を充分に認識・体験する事が出来た。人によって出来上がった皿の枚数に差が出てしまった。
    夕方食事をしながら反省会。お互い聞き辛かった事などの質問も出て、有意義な時間となった。

    皿の乾燥後、カンナを使っての削り

  • 2011年9月6日(火)6日目

    午前中に削り上げた皿の水拭き(表面の削り跡をなくす作業)をしてもらい、最後に自分のサインを入れて完成。
    これで素焼きが出来る状態なので、次年度までにこちらで素焼きをしておく事とする。
    最後に研修場所をきれいに掃除して元の状態に戻した。

  • 2012年8月26日(日)1日目

    午前9時に集合、今年度の研修、内容の説明の後すぐに研修場所へ移動。前年制作した皿は素焼きを済ませてある。この皿に各自考えてきたデザインを呉須で描いてもらうことになる。
    呉須による下絵付けと"だみ"の作業であるが、呉須の濃淡調整に苦労。

  • 2012年8月27日(月)2日目

    各自絵付けが終わった作品に釉薬掛け、磁器の施釉方法の指導を受ける。釉薬掛けが終わった皿を乾燥させ、磁器の特徴である釉薬仕上げ。釉薬が厚くかかった所や流れたまりがある部分を少し削り落とし表面を均一にする作業を行う。翌日の窯積みの準備。

  • 2012年8月28日(火)3日目

    前日の釉薬仕上げの残りを完成させ、窯積みに入る。窯はガス窯なので、棚板を使って積み重ねていく。棚板に隙間が出ないように効率良く積み上げていく方法を研修する。窯積みが終了し、点火をして窯焚きの開始。窯を焚きながら轆轤研修に入る。

  • 2012年8月29日(水)4日目

    前日から一晩中窯焚き研修、ガス圧調整や還元焼成の方法を学ぶ。前日に引き続き色々な種類の作品を出来るよう轆轤研修、徳利一輪差など各自技量に合わせて造形する。
    午後、窯焚き終了。約23時間、温度は1300度まで上げて終わった。その後も各自轆轤の研修。

    徳利制作技法の研修

  • 2012年8月30日(木)5日目

    前日同様に大きな作品の轆轤研修。
    この日は壺の制作の手順を全員で体験する。磁器の正しい作り方を指導してもらい、普段自分が行っている方法との違いを感じてもらう。また制作過程で今まで体験しなかった「ゆるどり」や徳利の削り方など何でも出来るように研修。

    壺制作後、半乾きの時に行う「ゆるどり」の作業

    素焼き後の釉薬掛け

    本窯棚板積み

  • 2012年8月31日(金)6日目

    自宅に戻っても勉強が出来るように、専用の「へら」作りを行う。作品の大きさや形に応じて色々なヘラが必要になるので、見本を基に作った。
    どうしても出来ないものは専門店に行き購入。地元産地でなければないものがたくさんある。

  • 2012年9月1日(土)7日目

    窯の温度を下げながら、その間に今回作り仕上げた皿等に彫りの指導。この彫りに使う道具も各自作った。
    午後、まだ熱さが残っているが、時間がないので窯上げを開始。皿の下にすいたハマは1回でだめになる事など、いかなる事も勉強のようである。各自、出来上がった作品を一堂に並べ、それぞれ評価をした。
    各自制作した自磁と染付を2点ずつ選び出し、それを持って2年間に渡っての研修がどの程度自分の物になったのかなど、DVD撮影用のインタビューを受ける。

  • 2012年9月2日(日)8日目

    前日窯上げした作品を各自割れないように荷作りをして、自宅へ発送。その後研修場所を元の状態にするように清掃、後片付けを行った。午後4時頃には終了し解散。
    2年間に渡っての研修であったが、どうしても時間に追われてしまい充分な研修が出来たのかと考えるところもあるが、講師の指導で白磁の技法を正しく間違いの無いように学んでもらった。この研修が受講生にとって今後の作陶活動に役に立つ事が出来れば、喜ばしい事である。
    研修された皆さんのご活躍を祈念します。

  • 窯が開き焼き上がった作品を見た瞬間、これが我が作品かと目を疑いました。気高い白磁の純白そして絵付けの呉須の彩かな青、磁器については初心者の私の力量では、とてもこれ程の完成された作品は作れません。改めてこの2年間の有田での研修内容を思い出しながら井上萬二先生、井上康徳先生、中尾恭純先生方のご指導の成果に胸を熱くしました。
    初年度は九州陶器文化館にて、この研修会の開校式その後館長の「有田焼の歴史」、窯業技術センター所長の「有田焼の素材・陶土と釉薬」の講義をいただき、研修会が始まりました。その後、井上萬二先生の研修会場で土練り、ロクロ成形。削り、各工程で必要な道具作りと参加者8名に対し3名の先生方が有田焼の伝統技法を惜しみなく実技指導してくださいました。400年の伝統から培われた有田焼特有のロクロ成形技術、成形時と逆回転のロクロでの削り技術と参加者全員が初体験にとまどいながらも磁器素地の繊細さと奥深さを痛感し、最後に自作の皿を仕上げ終え、23年度の有田での6日間でした。
    次年度は先生に素焼きしていただいた作品に呉須の絵付けした作品と白磁作品、その釉掛け、窯詰め、ガス窯での本焼き体験、その後、窯を冷やしている間に徳利、ぐい吞、大皿、壺、そして輪花等の口辺の加飾技法を実技指導していただきました。最後に窯出しして自分の焼上がった作品との感動的な出会いでした。
    最終日は前回同様に道具、ロクロ、仕事場の壁から床に至るまで水洗いして、塵ひとつなく清め白磁の世界の繊細さとすごさをご指導いただいた8日間でした。こうして、23年度、24年度と2年間にわたる白磁伝承者養成研修が終了いたしました。我々参加者一同、この有田での貴重な研修体験をスタートに、各々自らの白磁の世界を築く事こそが、本場有田焼の技法を惜しみなく指導して下さった諸先生方への最大の恩返しと心に決めて、今後それぞれ頑張りたいと思います。受講生一同、井上萬二先生他諸先生方へ心より感謝申し上げます。又、この様な貴重な機会をいただけた日本工芸会、各関係者へも心より御礼申し上げます。ありがとうございました。