「刺繍」伝承者養成技術研修会(2010 - 2011 年)

福田喜重先生による重要無形文化財
「刺繍」の研修会

活動報告

  • 2010年4月20日(火)1日目

    「日本の刺繍は仏教の伝来と共に遺隋使、遺唐使により中国から渡来した。平安時代に入り、日本独自の発展を遂げ今日に至っている」という歴史的背景の教授から講義がスタートした。各々の研修生が「刺繍」の伝承者として、文化的直感を養い創造性に磨きをかけ、森羅万象に油断なく接し、努力を怠らずやりぬくよう自覚を促すメッセージを頂いた。

    釜糸各種

    金糸の種類

  • 2010年5月22日(土)2日目

    「刺繍」は長時間同じ姿勢でするため、「座高と刺繡台の高さの関係」が大事であることなど、個別にアドバイスを頂き、肘板の使い方などの説明が行われた。
    その後、基礎的技術(糸の扱い方)の実習に入った。

    布地の準備

  • 2010年8月30日(月)~31日(火)3・4日目

    研修課題「額」のテーマが「四季」に決定。テーマに基づいたデザインを描いてくることが宿題となった。
    紋章学、波紋集、雲霞集など資料の紹介があり、その後、福田氏が復元された重要文化財「水辺雪持葦水禽文縫箔」の作品、その愛弟子でこの研修会の助手をしている阿部和子氏の「四季の花々」の作品を拝見し、その見事な技術と美しさに研修生一同大変参考になった。

  • 2010年9月14日(火)5日目

    この日の研修は糸縒。杉縒糸(金糸を混ぜる糸)の実技指導、桂縒(一般的には、糸の太さを変えて縒る変縒(かわりより)のこと)の実技指導があった。

    糸の扱い方について

  • 2010年10月16日(土)6日目

    デッサンに基づき、構図、色彩、繍技の指導を受けた。

  • 2010年11月16日(火)7日目

    引き続きテーマ「四季」に基づいた各自のデザイン画について、構図、色彩、生地の選択の指導を頂き、次回までにデザイン画を再考してくることが宿題となった。その後、布に下絵を描くための材料から使い方まで詳細にわたり実技指導を受けた。終了後、銀座カワムラで生地の見分け方の指導を受けた。

    分度器、コンパスによる指導

  • 2011年12月14日(火)8日目

    この日も各自のデザイン画に従い各々批評を頂いた。それぞれ個性が違い自由な発想で「四季」を表現し、ほぼ全員のデザインが決定した。
    色彩、繍技についてアドバイスを頂き、試し刺しをしてくることが宿題となった。

  • 2011年1月9日(日)9日目

    渋紙による型彫りや刷毛の使い方、下図の写し方の実技指導を受けた。

  • 2011年4月19日(火)1日目

    2年目の研修内容について説明があり、日本工芸会理事岩瀬なほみ氏より研修生に激励の言葉を頂いた。各自デザインに基づいた試し刺しを提出し、福田氏の指導のもと繡技、色彩を決定した。その後、布を固定する「台張り」の実技指導を受けた。「布を張るときは水糸の間隔を細かくするように」という注意があった。

    刺繍実技指導

  • 2011年5月16日(月)2日目

    各自、本番用台張りを持参し繍技、色彩の指導を受けた。

  • 2011年8月21日(日)3日目

    研修生より繍技について質問が出された。相良繍いの留め方と進み方、菅繡いの留め方、芥子繍いの進み方、切り押さえの進み方、絞りやしぼのある生地に刺繍をするときはどうしたらよいか等々、専門的な繡技を実演しながら詳細に説明された。研修生は日頃疑問に思っていたことを解決することができた。

  • 2011年9月28日(水)4日目

    福田氏持参の道具類の説明を受け、渋紙の秘伝の使い方を伝授された。

    道具類

    駒各種

  • 2011年10月22日(土)5日目

    京都北大路の福田氏のアトリエ訪問。氏が工夫され創られた道具類の数々、磨き抜かれた刺繍台、父の代からの糸撚り駒等々を拝見した。材料の収納方法などアトリエならではの、普段見ることができないものばかりだった。その後、渋紙の型彫りの実技指導、胡粉、金泥、墨による下絵の描き方の実技指導、糸撚りの実技指導が行われ、各自作品の繍技、色彩、仕上げ方について最終指導を受けた。
    日頃、福田氏は自然光の中で刺繍をすることの大切さを語っている通り、アトリエは歴史を重ねた空間で、自然光を充分に採り入れられて非常に明るかった。

    下絵描き

  • 2012年1月12日(木)6日目

    各自作品を持ち寄り、講評を受けた。
    創作とは何か、日本文化とは何か、氏が長年積み重ねてきた実績と経験に基づいた貴重な話は、日本伝統工芸展第23回展より今日まで、36回連続入選という偉業に裏付けされている。氏を含め総勢13名という大所帯が、この2年間一人たりとも一日も欠席することなく研修会を終了することができたことは大いに誇れることだと思う。日本における刺繍の益々の発展を祈念する。

  • 受講生は東京近郊の方が80%なので、先生が京都からおいで下さり、東京駅から数分という恵まれた場所で研修を受けました。刺繍は針と糸と布をどう使いこなすか。最高の技術の先生の作品を拝見することが一番勉強に成るので、毎回色々な作品をお持ち下さり、特に重要文化財「水辺雪持葦水禽文縫箔(みずべゆきもちあしすいきんもんぬいはく)」の復元は素晴らしく、感激いたしました。
    講義は、刺繍が曼荼羅繍仏から始まり、伝統的に絹と共に育ってきたこと。現在絹が危なくなり、針も特殊なので、用具類が難しいが、知恵と経験を生かし手に入る材料で作品造りを心掛けるように伝授くださいました。
    実技の作品制作は、各自の持つ特色と技法を最大限発揮できるように、題材、布、色彩等すべて自由にしてくださいました。毎回制作状況を見て戴き丁寧な実技指導を受け、管繍、相良繍、芥子繍、刺し繍等の、十人十色の変化のある作品が生まれました。実習も大詰めにて京都の工房で伝授頂くこととなり、工房では博物館で見ることが出来るような珍しい道具類、豊富な金銀絹糸類、隅々まで丁寧に作られた用具の数々、眼にする物すべて完璧であり、刺繍に重要な窓からの光線の取り方、道具の使い方、作業姿勢、台の置き方高さ、室内の照明の明るさ等、工房ならではの体験をさせて頂きました。特に感動したのは、木製で細い棒をの下部に円形の重りが付いている「糸撚り駒」を使って、16メートル前後の長い撚り糸を作る。現物と実際に撚る所を見るのは初めてで、手品のように用具類を自在に使う熟練した技の数々を拝見することができ感動いたしました。
    伝授頂いた多くの知識と技術、先生から頂いたお言葉文化的直感、当意即妙、造形努力、森羅万象等を制作に活かすのが私達伝承者の課題で有る事と認識した研修会でした。どんな些細な事も曖昧にせず熱心にご伝授下さった福田先生、助手の阿部さん、内田さんに一同心より感謝申し上げます。