「木工芸」伝承者養成技術研修会(2022 年)

須田賢司先生による重要無形文化財
「木工芸」の研修会

活動報告

※新型コロナウイルス感染症の影響により、令和3年度第1年次分を令和4年度に延期して実施
  • 2022年10月10日(月)1日目

    須田先生からこの研修会の目的及び予定などの説明があった。次に先生の工房に併設している「木工藝ギャラリー 清雅―SEIGA―」を見学する。ギャラリーでは先生の作品だけでなく先生の父にあたる故・須田桑翠氏(元日本工芸会木竹工部会長)の作品もあり、先生の説明に研修生は質問を交えながら熱心に耳を傾けていた。
    午後より技術研修。今回の研修の目的の一つは指物の基本技術である枘組(留型隠蟻組接=内枘)をきちんと習得する事とし、須田先生はその前提として道具の重要さを説き、罫引きを2丁制作することを前期の課題とした。荒取りされた定規板・棹などの部材と、市販品には良質の罫引刃が無いため、今回鍛冶職が特別に作った刃が配られた。先ず定規板を鉋で平面に削った後、厚みを揃えたが硬い樫材に苦労したようだ。

    木工藝ギャラリー 清雅 見学

  • 2022年10月11日(火)2日目

    午前、この研修会のもう一つの目的である、作家として造形感覚を磨き作品制作に生かすため、研修生が1人90分でパソコンを使いプレゼンを行った。各自が木工芸に取り組もうと思った動機、普段はどのような物を作っているかなどを紹介し、続いて持ち寄った自分の作品について語る時間を設けた。1日2人ずつの発表とし、先ずは五十音順にて2人のプレゼンテーションがあった。参加者全員が興味深く聞き入り、講師からいろいろな指摘もあり質問も活発に飛び交った。
    午後、罫引き制作。棹の厚みを決めて長さを加工。定規板の棹が入る穴の加工を始める。

    プレゼンテーション

  • 2022年10月12日(水)3日目

    午前、続く2人のプレゼンテーションが行われ、前日同様に自由な意見交換を交わした。
    午後は近隣の富岡市にある、世界遺産に認定されている富岡製糸場を見学した。やはり、建物の木工部分に興味が注がれている様子で 歴史ある建造物に見入っている様子だった。

    富岡製糸 見学

  • 2022年10月13日(木)4日目

    午前、最後の二人のプレゼンテーションが行われた。
    先生の作品を持ち出しての比較もあり、闊達な意見交換が行われた。
    午後、罫引き制作。棹の穴加工、定規板に対して適度な硬さで正確な直角に仕込むのは難しい。罫引刃の入る穴の加工。刃は頻繁に研げるように楔を入れて固定した。今回制作の罫引の重要な点である。

  • 2022年10月14日(金)5日目

    午前、須田先生の作品研究と付属品の講義が行われた。実際に先生の作品とその付属品(仕覆、外箱、金具、内貼、真田紐等)を先生の説明と共に間近に見られた受講生たちはその重要性を再認識している様であった。
    午後より罫引き制作。定規板は先生が代々使っている形を参考にした型から写してバンドソーで荒取りをして、小鉋、切り出し等で仕上げて完成とした。2年次の課題となる枡の材料(本桜)と留鉋が配られ、材料は持ち帰って厚みと幅を揃えてくるように、留鉋は仕込んでくるようにと指示があった。

    罫引き 型どり

  • 2022年10月15日(土)6日目

    研修会参加に際しての課題だった180mm×120mm×60mmの組手見本を各自提出し、先生からの批評を伺った。研修生たちは決して合格点の出る仕上がりで無かった為、後期の枘組の習得の必要性を感じているようであった。
    最後に先生から前期の総括があり終了となった。
    前期の研修では実習もさることながら多くの時間をプレゼンテーションや他者に自分の作品を伝える重要性について学んだ。それと同時に座学において先生の知識の豊富さに受講生一同驚いていたようであった。思い通りに実習が進まなかった研修生もいたが、それぞれ充実した面持ちで前期を終了した。

    課題組手見本

  • 2022年11月21日(月)1日目

    須田先生より日本木工史、工芸史についての講習があった。工芸史を研究して自分の立ち位置を確認し、木工史の長い歴史の末端に座す自覚をもち、今後の制作人生の展開に繋げていくように締めくくった。
    午後、後期の課題でもある、大小で入れ子になる枡の制作が始まった。枡は指物の基本である四角い箱の代表である。
    厚さを揃えた側板の木端を擦り台と長台鉋を用いて直線とし、幅を決める。木口台と木口鉋を用いて長さを決めた。講師からはすべて長さが同一で、直角になることが肝要であると指摘があった。

  • 2022年11月22日(火)2日目

    午前、同じ甘楽町内にある長岡今朝吉記念ギャラリー見学。須田先生の作品を熟覧。
    午後、枡の制作。前期に制作した罫引きを用いて板厚をもう一方の側板の胴付きと留先の段欠きをする部分に線をつける。その後、組手のオスとなる方に墨付けをし、それに沿って枘挽き鋸で鋸目をつけ蟻鑿、鑿で仕上げる。初めて内枘に挑戦する受講生もいたので慎重に作業を進めていた。

    長岡今朝吉記念ギャラリー見学

  • 2022年11月23日(水)3日目

    埼玉県比企郡川島町にある遠山記念館にて所蔵の木工芸作品を熟覧した。ルーペなどを用いて名工と云われる先人達の仕事を食い入るように見ては技法について様々な意見を出し合っていた。
    午後は川越市内にある鋸鍛冶の中屋瀧次郎氏の工房を見学。5代目である瀧次郎さんが真摯に話す鋸鍛冶の現状、目立ての方法など受講生たちも興味深く話を聞いた。

  • 2022年11月24日(木)4日目

    組手の両端の留めとなる所を留台、突き鑿で仕上げる。留先となるところは留台、留鉋を使って加工。その後、底板を入れるための溝を突き、底板を加工した。底板は材料の収縮に対応するように額上げとしている。
    要所要所で先生は実際に作業をして説明をされていたが、その際、受講生たちは食い入るように注視し、質問を投げかけたりしていた。

  • 2022年11月25日(金)5日目

    入れ子となる内側の枡を制作。外側の枡に入るように寸法を決め、外の枡と同じ手順で加工を進める。2度目という事もあり早く作業を進められるようになった。

  • 2022年11月26日(土)6日目

    内側の加工が終わったら組み立てていく。シリンジに接着剤を入れ組手に配っていき、ベルトクランプで締めて固定した。接着剤が乾くのを待ってから内側の升が入るように鉋で丁寧に調整しながら削り込んで完成となった。
    最後に先生からの総評とこれからの作品制作についての話を聞かせていただき後期を終えた。
    課題であった入れ子の枡を完成出来た研修生は2人だけだったものの、須田先生の熱心なご指導と受講生たちの頑張りもあり、一つ目の升は全員仕上げる事が出来た。残りの作業は各自持ち帰り仕上げる事とした。
     
    今回の研修会ではちょっとした休憩時間でも木工の話となってしまうほど先生をはじめ参加者全員が木工に対して真摯に取り組んでいる様子を窺い知ることが出来た。また、長時間にわたり先生のご指導を受け、先生の実際の作業を身近に見られたことは大変貴重な経験になり、今後の制作活動において糧となっていくと思われる。これからの研修生の作品に良い影響となって反映されていくことを期待したい。

    ベルトクランプで組み立て

  • 須田賢司先生による技術研修「木工芸」に6名のメンバーで参加させて頂きました。
    今回の研修で事前に頂いた計画書に、自分の作品を客観的に見る視点を養うという項目があり、受講生は作品を持ちより決められた時間プレゼンテーションを行う事となりました。いざ自作を文章化すると短い文章しか出来ませんでした。自作を客観的にみるという事は制作の動機や目的、問題点などを自分で十分に認識していなければ出来ない事だと、今までの制作意識の足らなさに気づきました。反省点ばかりのプレゼンでしたが、受講生同士の意見交換では作業の方法や、使った事のない材料を教え合ったりと有意義な話が出来ました。須田先生にはそれぞれに丁寧に批評して頂いたのですが、受講生皆が自分の事のように受けとる緊張感のある時間でした。また須田先生の作品を何点か見せて頂きながら、制作の目的、技法、注意点などのお話を聞き、作品を制作する上での意識のありかたを強く感じました。
    制作実習では内枘の習得が課題でした。内枘を正確に仕上げるには正確な道具が必要と、須田先生の考えにより、まず罫引の制作に取り掛かりました。同じ作業をしている先生の姿勢、道具や材料の扱い方は無駄がなく、美しく仕上がる仕口をみて感服するばかりでした。作業中に先生の道具をお借りする事が何度もありましたが、その都度、道具の仕立ての未熟さ、技術においての努力不足、制作意識の足らなさが自分の作品には出ているのだと痛感しながらの作業でした。
    木工史の講義、名品の熟覧、鋸鍛冶工房の見学と受講者皆学ぶ事が多く、研修期間中、須田先生のお話ひとつひとつに「木工藝とは」と考えさせられる事ばかりでした。
    最後に、御指導頂いた須田賢司先生、夜分までお付き合い頂いた桑山様、研修前からご尽力頂いた林様、そして素敵仲間に出会えた事、受講者一同感謝申し上げます。