「木工芸」伝承者養成技術研修会(2022 年)

須田賢司先生による重要無形文化財
「木工芸」の研修会

講師紹介

  • 須田 賢司
  • すだ けんじ
  • 重要無形文化財「木工芸」保持者

<研修会について> 木工芸には多くの技法がありますが、木を組み合わせて器物を作る指物技法には、伝統的な正しい技術が要求されます。指物の基本は「四角い物を四角に作る」ことですが、そのためには木材を「切る」「削る」「組手を作る」の各段階で、正確に、美しく行わなければなりません。研修会では正しい指物技法の習得とそれを支える正しい道具を作り、さらに作品制作において車の車輪ともいえる、創造的な造形力の錬磨をも目指しました。実技と共に座学も重視したのはそのためです。

実施概要

  • 期間
    2022年10月10日~15日 /
    2022年11月21日~26日

    ※新型コロナウイルス感染症の影響により、令和3年度第1年次分を令和4年度に延期して実施
  • 会場
    須田賢司工房
  • 講師
    須田賢司
  • 助手
    2名
  • 受講者
    6名

実施スケジュール

※新型コロナウイルス感染症の影響により、令和3年度第1年次分を令和4年度に延期して実施
2022年10月10日(月)
  • 午前 研修会の説明と先生のギャラリー見学
    午後 技術研修開始 罫引き制作
2022年10月11日(火)
  • 午前 受講者自身と自作品のプレゼンテーション
    午後 引き続き罫引きの制作
2022年10月12日(水)
  • 午前 受講者自身と自作品のプレゼンテーション
    午後 富岡製糸場見学
2022年10月13日(木)
  • 午前 受講者自身と自作品のプレゼンテーション
    午後 罫引き制作
2022年10月14日(金)
  • 午前 講師からの講義。付属品に関する説明
    午後 罫引き制作仕上げ
2022年10月15日(土)
  • 研修の課題提出と批評 前期の総括
2022年11月21日(月)
  • 木工史・工芸史の研究、講師デモンストレーション、
    実習 入子升制作(前期制作の罫引き・留鉋を用い制作)
2022年11月22日(火)
  • 長岡今朝吉記念ギャラリー見学、
    実習 升制作・仕口の加工等、工房ギャラリーにて受講生の作品展示(期間中展覧)
2022年11月23日(水)
  • 遠山記念館にて所蔵作品の熟覧、中屋滝次郎工房見学、
    実習 升制作・仕口加工等
2022年11月24日(木)
  • 実習 升制作・仕口加工等
2022年11月25日(金)
  • 実習 升制作・組み立て接着等
2022年11月26日(土)
  • 実習 升制作・組み立て接着・仕上げ、個別面談、
    講師総評 受講生感想

講師のひとこと

毎回2年にわたって行われる伝承者養成研修会ですが、木工芸研修会はコロナ禍にあって第一年次が延期となり昨年10月、11月に続けて2年分を行ないました。参加者にとっては厳しい日程でしたが、もともと前後期をなるべく間を置かずに開きたいと思っていたので、緊張感を継続し連続性をもって行なえたことはかえって幸いでした。
この研修会は後継者の育成を主な目的としていますが、その後継者とは工芸家として自律した作家をめざす方々だと思います。そのためにはしっかりした技術とともに、作家としての自覚に裏付けられた創造的な造形力が車の両輪として求められますが、ややもすると今まで研修会は技術の伝承に重きを置く傾向にあったように思われます。
そこで今回は技術の錬磨と作家性の確立を目標にカリキュラムを組みました。
前期午前中は「自作を語る」として、持参した作品と、自分自身のことについてパソコンを使いプレゼンしてもらいました。また自作品を客体化するために、作品についての思いなどをA4用紙1枚に文章化する宿題も研修会参加の前提としました。その他午前中は主に工芸史、木工史などの座学に充て、作家としての自覚と工芸家としての基礎を学ぶ重要性に気づく場としました。
午後は技術の習得、錬磨の時間として、指物の基本中の基本である正方形の箱を「きちんときれいに」作ることを目指しました。伝統工芸展に入選を重ねていてもまだまだ基本がおろそかになっていることにも気が付いたと思います。今回は技術だけではなくその工程を支える基本的道具も作りました。道具の重要性に気が付き自分の道具を見直す機会になったと思います。
木工芸、特に指物は仕事場そのものも道具と言えるほど数多くの道具が必要であり、どこか他の場所に道具を数点持っていけばできるという仕事ではありません。その点でこのような研修会はとても難しいのですが、今回は作業台も含めて各自がこの仕事に必要と思われる道具をすべて持参するという大掛かりなものとなりました。また会場は私の仕事場で行いましたが、他作家の仕事場で同じ作業をする経験はなかなかできることではなく、良い刺激になったと思います。
技術習得の課題作が十分な完成に至らず宿題になった研修生もいましたが、短期間とは言え今後作家として木工芸に取り組んでいく基礎と覚悟は深まったように思います。2週間同じ課題に必死に取り組んだ仲間として研修生が今後活躍することを期待しています。