「白磁」伝承者養成技術研修会(2021 - 2022 年)

前田昭博先生による重要無形文化財
「白磁」の研修会

活動報告

  • 2021年11月15日(月)1日目

    前田先生より今回の研修会の意義、白磁の技術的研修だけでなく各々受講者の今後の仕事に繋がっていくように研修を進めていきたいという説明より研修会が始まる。受講生それぞれの普段の仕事を含めた自己紹介の後、各々のロクロの選定をする。ロクロの種類、椅子の高さ、ペダルの位置、など相性があるため各自話し合いながら決めていく。今回の白磁研修では天草陶石が使われている。白磁制作において、陶土との扱い方の違いはもちろんあるが、陶石の種類でも違いがあり、先生は出石陶石のブレンドなど様々な取り組みをしてきたが、初めの一歩としては標準的な天草陶石のえり上で制作することで素材感を認識していく。
    午後より講師の土揉みの実演の後、各々土揉みをする。普段使っている陶土、磁土との差、違いを感じつつ空気が抜けて均等の硬さになるよう気を付ける。
    コテ・ヘラ等ロクロ成形時に使う道具の説明を受ける。既存の道具の使い方ではなく、道具へのアプローチの重要性の解説。講師が20年~30年かけて見つけ出した松の板の道具をそれぞれ頂く。
    土揉み後、ロクロ成形に入るが、磁土の感覚に慣れるように湯呑等の小物成形より手を慣らしていく。その後今回の研修成果として提出予定の筒型、壺型のロクロ成形に取り組む。産地技法のやり方に拘るのではなくそれぞれのやり方で磁土を立ち上げていく。講師、助手、受講生、それぞれでロクロ回転スピードの違い、道具の使い方の違いがあり、各々の特徴を話し合いながら作業を進める。

    土揉み(土練り)風景

  • 2021年11月16日(火)2日目

    講師の轆轤成形実演。轆轤技法の特徴、陶磁土、作品への取り組み方の説明を受ける。
    午後より轆轤成形開始。昨日頂いた松の板の道具などを使って成形していく。夕方より乾燥具合を確かめながら、各々使いやすいように道具、コテを作る。講師の道具、作り方を参考にしながら木製のコテを糸のこぎり、やすりで削り仕上げていく。

    轆轤成形

  • 2021年11月17日(水)3日目

    昨日の続きであるコテ作りの仕上げ。それぞれの轆轤成形時に応じ改良を重ねる。午後より講師の「面取り、面押さえ」(轆轤成形を終えたものに面を指でつけていく技法)の実演。受講生各自、乾燥具合を確かめつつ講師の指導の下、面を押さえていく。さらに今までの工程を踏まえて土揉み、ロクロ成形をする。

    指圧による面押さえ指導

    面押さえ風景

  • 2021年11月18日(木)4日目

    国指定重要文化財、石谷家住宅で開催されている講師の展示会「白瓷の世界」を見学。展示、光と影による陰影のバランスを踏まえ面取り作業に入る。講師による「面取り、面削り」(面押さえを終えたものを削り、面のカタチを整えていく技法)の実演。水分調整のやり方、押さえる力具合、ステンレス板の使用方法を指導の下、面取り作業を進めていく。

    粗削り作業

  • 2021年11月19日(金)5日目

    昨日に引き続き面取り、面削り作業を進める。パスで測るときのポイント、線の測り方などを実演と共に指導を受ける。工夫を凝らしながら各々面押さえ、面取り、面削りでの表現方法を探っていく。面を強く押さえすぎたり、押すタイミングが合わない事によるひび、亀裂の発生などに苦戦しつつも繰り返し作業を行っていく。

  • 2021年11月20日(土)6日目

    2年次工程の確認をする。陶土と磁土の成形技法の違いの一つに削るタイミングがあり、通常、陶土では幾分水分が残っているときに削り終える。完全乾燥後には削ることはほぼ不可能である。逆に磁土では水分が残っているときに削り終えると不良品になることが多く、完全乾燥後に削り終える。この完全乾燥後に削っていくという時期の特製を活かすため1年次の磁土の柔らかいタイミングの工程を丁寧に仕上げる。
    その後2年次の初め(完全乾燥後)に削りを開始できるように準備をしていく。磁土が柔らかい時に最終のカタチまで仕上げると磁器としてのエッジが立たなくなるなどの指導があり、完全乾燥後の削る余白、余韻を残しながら仕事を続けていく。また2年次に掛ける釉薬(焼成後作品を覆うガラス質の層)の選定をする。作品の焼き上がりを念頭に置きながら次年度に備える作業を経て1年次が終了した。

  • 2022年11月14日(月)1日目

    2年次の作業スケジュールの確認をする。削り終了後に素焼き、窯が冷めるのを待ち、その後釉薬掛け、本焼きの窯詰めなど綿密に計画を把握する。完全乾燥後の面削りを講師実演の後、それぞれ削りに取り掛かる。丁寧な削りは必要だが、闇雲に削ると轆轤成形のアウトラインの魅力が消えてしまう。また薄い部分、厚い部分の差から焼成後に歪み等が発生する為、慎重に進めていく。何度も作品全体を見ながら削る作業。

    磁器カンナでの面取り指導

  • 2022年11月15日(火)2日目

    前日の流れで受講者各自削り作業。完全乾燥後の削りは粉として削るため、防塵マスクを使用し粉塵に気を付けながら作業を進める。カンナ、ステンレスの刃金を駆使し、メッシュの番数も様々あり適宜使い分けながら作品を仕上げていく。地道な作業と時間をかけていくことが要。穴があく、割れてしまうなどの困難に苦戦しつつも作業を続けていく。削り後、作品を水で拭うが、その加減方法を講師が実演。ここでも水で拭いすぎると微妙なカタチのズレが発生する為、気を付けて進めていく。水拭い終了後素焼きの窯を詰めて終わる。

    素焼きの窯詰め

  • 2022年11月16日(水)3日目

    地元の因州中井窯と花輪窯工房を見学し、制作工程の説明を受け作品を見る。
    鳥取県立博物館の三浦努学芸員より、収蔵されている陶芸作品の説明をしていただく。

  • 2022年11月17日(木)4日目

    素焼きの窯が冷めるのを待つ間、砂像制作、陶器制作の現場等を参照し磁土における表現としての工程作業、創作指導を受ける。素焼きに間に合わなかった壺などの削り作業の続き、轆轤成形等を演習する。

  • 2022年11月18日(金)5日目

    素焼きの窯出し。釉薬をかける前の仕上げをする。講師による釉薬かけの指導。作品内側に釉薬をかけて窯で強制乾燥させる。その後外側をコンプレッサーで掛けていく。講師の指導の下、釉薬をかけていくが、釉薬の濃度、コンプレッサーの噴き加減など微調整を試しながら作業を進める。

    素焼きの窯出し後

    コンプレッサーによる釉掛け作業

  • 2022年11月19日(土)6日目

    外側に掛けた釉薬の乾燥後、最終仕上げの指導。釉薬仕上げ、高台の釉薬はぎを丁寧に進めていく。本窯の窯詰め。還元焼成のため炎の回り方を考慮し間隔に気を付けながら作品を各々詰め、研修過程の全ての作業を終了する。
    日程の都合上、最終の窯焚きは講師の前田先生、助手の森氏、受講生の糸井氏で行われた。万全を尽くして作品制作に向かうも研修期間のみで思い通りに焼き上げ、完成させることは困難である。最終的には焼成を終えて制作工程を振り返り、これを一つの手掛かりとして、ものつくりを繰り返すことが必須なのは間違いない。
    今回の白磁制作の技術研修は技術の習得のみではなく、白磁、陶芸制作の思考、動作、所作を目の当たりする経験。ものに触れる時間と触れない時間。意識と無意識。風土と時流。作業や作ることで終わらず、講師に直に触れて学ぶことができたことは、今後受講生の陶芸人生において大きな糧になったと思われる。

  • 2ヶ年に渡り、前田昭博先生による「白磁」伝承者養成研修会に参加させて頂きました。
    研修生6名、助手2名は各地から集まり、普段の制作では使う材料や技法も異なっていましたが、和やかに交流しつつ研修に取り組みました。
    一年次では、土揉み、ロクロ成形、面取りの工程を行いました。この研修の要となる「面取り」では、前田先生の実演により、私の認識する方法とは少し異なっていることを知り、戸惑いながらの作業となりました。水挽き後の程よく水分を蒸発させたかたちの表面を、指の腹で少しずつ丹念に押さえていくのですが、最初は小さなひと押さえの変化が、積み重なるにつれ大きな面の変化へと導かれていきました。出来上がりのかたちをイメージし、柔らかな空洞のものに力を加えていく事は、難しくも新鮮な感覚でした。
    二年次は、一年次に途中まで制作したものが完全に乾燥した状態となり、その表面をカンナで削って仕上げました。私は仕上げ作業でかなり苦戦しましたが、そのような試行錯誤は、これまでの自身の制作を振り返る良いきっかけになったと思います。また、先生の温かなご配慮やメンバーからの励ましのおかげで、何とか仕上げることができました。その後、素焼き、施釉、本焼成の点火までを行いました。最終工程の本焼成に関しては、前田先生と助手の森氏に託す事となり、感謝と共に研修を終えました。
    前田先生には、ものづくりについて幾度となくお話をお聞かせ頂きました。中でも「作品は想いの積み重ね」という言葉が印象に残っています。その「想い」は、面取りをする際の「押さえの技術」と重なり、さらには先生の作品のモチーフとなっている、鳥取の「雪」の降り積もった情景にも繋がります。その土地の風土に想いを寄せながら見出した、技法や技術を越えた「独自の美の表現」を学ばせて頂いたと感じています。
    前田昭博先生をはじめ、助手の中村清吾氏、森和之氏、作家の皆様や施設関係の皆様、そして日本工芸会の皆様には、素晴らしい機会を与えて頂きまして、心より御礼申し上げます。