「蒟醬」伝承者養成技術研修会(2001 - 2002 年)

太田儔先生による重要無形文化財
「蒟醬」の研修会

活動報告

  • 2001年11月26日(月)1日目

    まず藍胎について歴史を中心に講義が行われ、その後今回制作する八角小箱の完成見本を見ながら、これからの研修内容の説明を受け早速実習に入った。

    1.木型制作
    籃胎には網代を編みつける木型が必要である。今回はすでに数枚の板を貼り合わせた寄木材があらかじめ準備され、その直方体から鋸と鉋を用いて身と蓋の型を制作する。この木型は素地作りの全ての基準となるため、精密な型作りを行った。

    1.木型制作指導

  • 2001年11月27日(火)2日目

    内国勧業博覧会に出品された明治初期頃の籃胎と、太田先生考案の二重で編み上げられた籃胎を見て、その特色についての講義が行われた。

    2.竹ヒゴ作り
    身と蓋の網代作りに必要な竹ヒゴを作る。すでに油抜きを終え、薄く剥がれた真竹が用意され、そこから幅決め・厚さ決め工具を用いて、幅1.43mm、厚さ0.25~0.3mmになるよう削っていく。

    2.竹ヒゴ作り

  • 2001年11月28日(水)3日目

    3.網代手編み工程
    制作した竹ヒゴで蓋の天部分の大きさに合わせて八角形の網代を編む。編んだ網代を蓋の木型に貼り付け、残りのヒゴは折り曲げて側面の立ち編みに繋げる。

    3.網代手編み

  • 2001年11月29日(木)4日目

    香川漆芸の祖である玉楮象谷(たまかじぞうこく)が手掛けた蒟醬料紙箱のX線写真を見ながら、当時の籃胎構造の解説を受ける。

    4.籃胎成形 麦漆付け
    編み上がった網代全体に麦漆を付ける。

    4.籃胎成形(麦漆付け)

  • 2001年11月30日(金)5日目

    5.籃胎成形 麻糸巻き上げ
    全体の麦漆が乾いたら側面のみに麦漆を付けて麻糸を固く巻き上げていく。
    麦漆が乾いたら麻糸を生漆で固める。
    これ以降の素地制作は来年研修時までの課題となり、研修生は適時太田先生に指導を受け、1年間かけて籃胎素地を完成させることになった。
    6.下地
    網代、麻糸の凹部分に切り粉錆を摺り込み、軽く水研ぎした後、全体に麻布着せをする。その後切り粉錆及び錆付けをして素地整形を行う。
    7.木型外し
    捨て中漆を塗ったのち、籃胎素地を木型から外し、内側網代に麦漆を摺り込み、梨子地漆を数回塗り重ねる。
    8.黒漆塗り重ね
    蓋外側に蒟醬彫りができる厚さになるまで、黒漆を10回程度塗り重ねる。

    5.籃胎成形(麻糸巻き上げ)

  • 2002年11月25日(月)1日目

    初日は蒟醬の講義から始まった。蒟醬の種類や蒟醬剣について、また今回の研修課題となる布目彫りの特色である色の並置による網膜混合について学習する。そして文化庁企画の工芸技術記録映画「蒟醬 太田儔のわざ」を観賞し、映像によって実際の混色効果へ理解を深めた。
    その後7名それぞれ完成した素地を確認していただく。

    1.1回目蒟醬彫り
    手板への蒟醬布目彫りを行う。1mm幅に2~3本の線を引いていくという作業で、実際に太田先生の彫りを見せていただき、そして道具の説明を受けて各自彫りを進める。

    素地の確認

  • 2002年11月26日(火)2日目

    午前中は引き続き布目彫りを行い、午後からは高松市美術館へ移動し「蒟醬 太田儔展」を鑑賞する。この展覧会は約30年にわたる作品が並べられており、お仕事の変遷を一望できるようになっていた。技法のほとんどは蒟醬でありながら、年代あるいは作品によってそれぞれ試みがなされており、そこから次の作品へと繋がっていく過程を、作品を前に解説を受けることができ有意義な鑑賞となる。

  • 2002年11月27日(水)3日目

    2.1回目蒟醬色埋め
    彫った部分に1回目の色漆を充填する。
    3.1回目炭研ぎ
    充填時の余分な色漆を炭で平らな状態まで研ぎつける。

    2.1回目蒟醬色埋め

  • 2002年12月9日(火)4日目

    太田先生自ら2回目蒟醬色埋めをしていただいた。色漆の粘度、塗りの厚み、筆を用いた塗り方など留意点を聞きながら、目の前で確認できる好機となった。

    4.2回目蒟醬彫り
    研ぎ出した色漆の上から再び全体に布目彫りを行う。

    4.2回目蒟醬彫り

  • 2002年12月10日(水)5日目

    2回目に充填する色漆の作製に入る。色を重ねることでより効果が出るような構成へと、また顔料の使用法、乾燥速度調整等の指導を受けながら色を決定する。

    5.2回目蒟醬色埋め
    彫ったところに色漆を1回目同様充填していく。今回の研修では時間の都合でここまでとなったので、各自助言をいただきながら半年かけて仕上げることになった。この後の工程として、
    6.2回目炭研ぎ
    7.仕上げ
    研磨剤による胴摺り、摺り漆重ねをおこない、漆面に艶を付けて仕上げとなる。

    太田先生は「籃胎という香川に伝わる優れた技法を大切に、そして古くから伝わる蒟醬の技法を錬磨すると同時に独自で新しい技法を創造し、それらを組み合わせるなどしてさらに発展させることを今後の課題にして欲しい」という言葉でしめくくられた。2年間にわたる研修への感謝の意を、この課題へ実践的に取り組むことで表していきたいと思っています。

    5.2回目蒟醬色埋め指導

  • 2ヶ年に渡った太田儔先生の籃胎蒟醬の伝承者養成研修会は私にとって大変貴重な勉強の会となりました。まずはこの機会を与えてくださったことを心より御礼申し上げます。
    1年目は籃胎素地の制作でした。まずは木型を鉋で削り、ヒゴ300本以上を、厚さ、巾を揃えて作り、木型に編みつけて成型していきました。作業の合間をぬい、太田先生が試行錯誤を重ね現在の籃胎素地を確立された経緯や、今後、私達が籃胎素地を制作する際の重要な点等を広い心で御教授してくださいました。私達はひたすら手を動かす傍ら耳を傾け、5日間という限られた時間の中での集中した作業と太田先生のお話は籃胎素地のあらゆることを吸収する有意義な時間となりました。その後は自宅での研修となり、下地から蒟醤の為の塗り重ねまでを行い、2年目の研修に備えました。
    2年目は布目彫蒟醬の研修でした。1ミリメートルの中に3本の細かい線を縦横に彫り、色漆を埋めて研ぎ出し、次に斜め方向に彫り、色漆を埋めて研ぎ出すという作業でした。1ミリメートルの中に3本の線を彫るという緻密な作業は、定規を2人で押さえる為、息が合わないこともあり苦労しました。また、研ぎ出して色が重なった時には、予想通りとはいかず、併置混合による色の組み合せの難しさを感じました。図案に関しても、色の特性に基づいた色彩計画の立て方も理にかなったもので判り易く、これからの制作の良い参考となりました。
    経験をすることにより発見し、省りみて改めてそして又経験をする。毎作品ごとに、毎作業ごとにそれを繰り返し、積み重ねてこられた太田先生の心意気を間近に感じることができたのは私にとってとても貴重な体験でした。
    最後に、微に入り細にうがつ説明で、私達にあらゆることを御教授してくださいました太田儔先生、そして数多くの作業の中、親切に手助けしてくださいました大谷早人先生に、心より御礼申し上げます。