活動報告
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2000年6月1日(木)1日目
第1年次初日の6月1日は、ラブリーホールにて開講式が行われ、研修会の進行計画及び実習のカリキュラムが発表された。
研修主題は聖徳太子像を参考に、柄香炉を持つ童子立像の乾漆技法による製作。秋山先生は、製作の心がまえとして歴史的な背景を探ること、像がもつ象徴性の大事なことなどをお話になり、乾漆による仏像等の写真を配布された。また古くから仏像の製作に乾漆を取り入れた理由、乾漆の特徴、漆の種類、用具の扱い等、漆を扱う基本の説明をされた。
1.油粘土で原型を作る
像の芯になる木材に麻縄を八の字に巻く。頭部の木片を取り付け、油粘土にて全体像をつくる。油粘土で原型を作る
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2000年6月2日(金)2日目
2.石膏で雌型を取る
頭・手を外し胴体部の側線上に幅1.5cmの切金を差し込む。全体が同じ厚みになるよう注意しながら、切金がほぼ隠れるまで水で溶いた石膏をつける。前部分が固まりだしたら後部分も同様にする。半時間ほど置いてから切金を外し、石膏型を開き、中の油粘土を取り除く。
3.剥離剤を塗る
姫のりを水でうすく溶き、ベンガラを混ぜて「剥離剤」を作り2回塗る(濃い味噌汁程度の濃さ)。石膏で雌型を取る
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2000年6月3日(土)3日目
4.さび・麻布で乾漆胎を作る
板の上で、砥の粉に水を加えて練り、その1/3或いは2/5の生漆をまぜて更に練る。これを「さび」という。
1回目刷毛でさびを塗り乾かす。指先でたたいて爪痕がつかなくなる程度になったら、
2回目同じ分量で作ったさびを塗る。これで1ミリ半~2ミリの厚さになる。
3回目砥の粉と生漆を同量くらいに練ったさびをうすく塗り、ヘラで麻布を押さえつけて、その上に布が浮かないようにさびを塗っておく。麻布は適当な大きさに切り、隙間のないよう貼り雌型のふちから、はみ出さないように注意。ふちは心もち厚めにさびを塗る。
これを4回ほど繰り返す。場合によっては厚みをつけるため、砥の粉の代わりに地の粉を入れたさびを使うこともある。さびを塗る
さびで麻布を貼り、はみ出た部分は取る
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2000年10月30日(月)4日目
5.石膏を割り、木片を入れ、型を合わせる
のみと金槌で石膏を割り、取り除く。ベンガラ剥離剤を洗い流す。首と手の差込部は削り、はめ込みができるよう支えの木を入れておく。同僚のうどん粉と漆とをよく混ぜた「麦漆」を型の前後の合わせ目に塗り、すりあわせるようにして接着させる。麻紐でしっかり縛り付け、風にあたらないよう乾かす。合せ口が硬く接着したら補強の為、麻布を漆で貼る。乾いたら全体に漆で薄い麻布を貼る。石膏を割る
木片を入れ、型を合わせる
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2000年10月31日(火)5日目
6.さびで整形
さびで型を整え、乾いたら耐水ペーパーで磨く。
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2001年4月17日(火)1日目
「色漆」を作る
朱合漆と顔料とを練り、漆漉し紙で漉す。顔料の種類、漆の性質、乾漆粉の作り方などの説明を受ける。
7.乾漆胎の下塗り
乾漆胎に生漆を漆刷毛で2回塗る。漆が乾燥する為には湿度を必要とするので加湿された室に入れ、8時間以上置く。
8.文様の型紙作り
柿渋紙に文様を彫る。色漆で試し刷りをする。 -
2001年4月18日(水)2日目
秋山先生のお住まいの河内は太子ゆかりの地として名高く、漆を乾かしている合間を使い、河内長野市教育委員会の方のご案内で見学に出かける。観心寺で本尊・国宝如意輪観音菩薩像を見学、近つ飛鳥博物館で「白鳳の美」展と常設展を観覧。そして聖徳太子の御廟を守る叡福寺を見学。聖徳太子絵図などはこれから取り掛かる衣裳の色や模様に大いに参考となった。
観心寺の本尊開扉日の見学
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2001年4月19日(木)3日目
9.布を貼る
布貼りのための下地を作る。乾漆胎に石州半紙を貼り、地塗り胡粉を塗る。木目込みの為の溝を彫り、布地の色目に合った地貼紙を貼る。その上に手織り麻布を木目込む。
10.文様を付ける
8の型紙を使い、色漆を刷り込み文様を付け、更に金箔を施す。
11.頭・手を作る
頭と手は桐塑により成形されたものに石州半紙を貼り、三千本膠で溶いた胡粉を、地塗り中塗りと塗り重ねる。胡粉仕上げの場合は、更に極上の上塗り胡粉を塗り重ねて仕上げる。紙貼り仕上げの場合は、土佐典具帖紙(とさてんぐじょうし)を澱粉のりで貼り重ねて仕上げる。できあがった乾漆胎の上に和紙や布を貼る
胡粉を塗る
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2001年11月15日(木)4日目
12.小道具と仕上げ
桐塑で成形した小道具の柄香炉に生漆を塗り金箔を押す。頭髪は胡粉仕上げの場合は青墨に上塗り胡粉を少し加え、平筆で塗り重ねる。紙貼りの場合は墨染めした典具帖紙を貼り重ねる。沓は黒漆を塗った上に、黒漆と豆腐(又は卵白)をよく練ったものをタンポンで叩く「しぼ塗り」を施す。 -
2001年11月16日(金)5日目
開眼
乾漆粉による仕上げ、或いは色漆を塗った上から和紙や布を貼り仕上げ、様々な技法を自由にこなし、充実の10日間であった。
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2ヶ年に渡った研修でしたが集中した時間を過ごし、終ってみれば瞬き程に短く感じられます。しかしその瞬き程にも思える時がなんと豊かなものであったかを思い返し改めて今回の研修に参加させて頂いた事に感謝しています。
1年次、開講の挨拶が終ると早速に秋山先生の童子像をお手本に油土による原型造りから始まり型取り、漆による布の内貼り等々、なかなか捗らない事もありましたが補佐して頂いた近畿支部の皆様のお陰で進める事が出来ました。体は脱乾漆、首は桐塑で造り、仕上げは各参加者の希望の違いもあり、先生の御配慮で漆、胡粉、布、和紙貼り等を自由な選択にしてよいという事にして頂きました。その結果2年次に集まった時には様々な仕上げの作品が出揃い、それぞれが苦労した点など聞く事ができ思いがけず勉強になり、又夜遅くまで情報交換するなど今まで話す機会の少なかった各支部の方達と親しくなれた事も喜びでした。
今回、先生には質問等にも微に入り御教授して頂き、又自ら手解きして下さる事も度々でした。その様な時はいつも物静かでニコニコされている先生のお顔が一変して厳しいお顔で人形に向かわれるのが印象的で、先生の制作に対する姿勢の一端を垣間見られた様な気がしました。先生には技術的な指導はもとより、時間をさいてまで文楽の人間国宝の吉田文雀さんの楽屋を訪ねる機会を作って頂いたり、色々と文化に触れる機会を作って頂き豊かなものを学ぶ事ができました。
閉講式を迎えた時は何とも名残り惜しい感で一杯でしたが、御教授頂いた技術と心、そして「昔のものをそのまま造るのではなく現代に活きる感性を大切にして欲しい」と言われたお言葉をかみしめ、自分なりに何をすべきかを考え精進していきたいと思います。
最後に秋山先生、補佐して下さった柴田さん、井上さん、友中さんら近畿の皆様方の御心遣いで有意義な研修を経験させて頂いた事を心より御礼申し上げます。
執筆者:井上 楊彩(人形部会)
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