活動報告
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1999年10月19日(火)1日目
東京国立博物館にて磁州窯の作品を観察し、その技法を探求する事から始まった。東京国立博物館東洋課主任研究官今井敦氏立会いの下、「白釉絞胎碗」、「白釉絞胎盤」、「緑釉絞胎碗」(いずれも北宋時代)、また唐時代の絞胎盃などの貴重な所蔵品が展示され、今井氏、松井先生の解説を受けながら各自メモを取り写真におさめ、また手に取ってその造りを確かめるなど、またとない貴重な体験となった。
東京国立博物館にて所蔵品の観察
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1999年10月26日(火)~29日(金)2~5日目
松井工房にて磁州窯の作品を再現する実技となった。技法上まったく同じに再現する事は困難であるので、それぞれの文様を出す為の技法を用いて器を作るということになる。土の色は白と濃茶(硅酸鉄微粉末による)の2色、ベースとなる土は松井工房で用意した物、型は同じく松井工房で用意した石膏型、または各自用意した型を用いた。最初は硅酸鉄微粉末をベースの土に練り込んでいく事から始まる。先生よりまぜる硅酸鉄の分量が指示され、またダマになったり柔らかすぎたりしないように、水を入れ過ぎないよう注意がされる。
次に練り上がった色土及び白土を各々20cm×30cmのたんざくとし、これをたたら板とワイヤで薄く切って交互に重ねていき、全ての文様の基本とする。5~6段重ねた所でこれを薄くするのであるが、先生は手刀を使って実にリズミカルに延ばしていく。この間に接合面はこすれあい、空気は押し出され、密着が強くなるのである。できた線文を短く切って方向を90度変えながら組み合わせた物が網代文、線文を切っては積み上げ、段数を多くしてから両木口を同一方向にこすり上げた物が鶉文、反対方向にこすり上げ、鏡合わせにしたものが柳文となる。これらの文様を施したブロックを必要な厚さに切り、円盤状にまとめた後に、型の上でたたき成形して碗や盤、盃の形にしていくのである。いずれの工程においても、重要な事は粘土同士をよく密着させ、空気を追い出すことである。ここで先生は、指で粘土をたたいてい締めてゆくという方法を示した。この方法は松井先生独自のものであり、乾燥段階での割れを防ぐのに非常に効果的なのである。先生は指でたたく事による文様のくずれを最小限におさえ、かつ力強く締めてゆく。一方の受講生たちは、やはりおっかなびっくりといった感じで力が入っていない様子である。「もっと思い切って土の中まで気持ちが届くように」と先生の言葉がかかる。
工程は円盤状の粘土を型にかぶせて成形する段階となる。「厚みのバランスを考えて、できるだけ薄く作るように」と先生から指示を頂く。練上は異なった成分の土を組み合わせていくために、乾燥、焼成の際に収縮の違いによるひずみが生じる。このひずみをうまく逃がしていくような形と厚みのバランスが重要となる。各自、型の上でまた指で締め、たたき板などを使って成形していく。作品はこの後で型からはずされ、生乾きの段階でカンナでけずり形を整えるのであるが、やはりここでも厚さのバランスが重要となる。今回は文様が小さく、作品も小さかった事により比較的成功率が高かったが、それでも指締め不足やバランスの悪さから、割れの入った作品が2~3見られた。受講生たちは普段は練上手をやっていない者がほとんどである。1年次を通して、土の扱いの違いや道具の違いなどを実感できたものと思う。今回はカンナがけまでで終了となり、各自作品を焼成して2年次に持参する事、オリジナル作品を考え準備する事を確認して解散となった。土に硅酸鉄粉末を練り込む
白と茶の土を薄く切り交互に重ねる
重ねた土を薄く延ばした後、数段重ねて一定の厚味できる
柳文を作るために一方向にこすりあげる
柳文のパーツを円盤状にまとめて行く
指でたたき締めて、よく密着させる
石膏型にて成形する
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2000年10月23日(月)~10月27日(金)
初日より各自オリジナル作品の制作となる。まず、1年次に制作した作品の講評である。各自、自房において透明釉をかけて焼成した作品を並べる。多少の変形や文様の違いはあるものの、磁州窯の雰囲気がよく再現されており、先生より「大旨成功している」との評をいただく。
今回、松工房より土、顔料などの用意もされていたのだが、受講生の中には自分で土を調合してきたり、青の顔料を用意したり、内籠めの陶筥の型やスチロール樹脂を成形した型を持って来た者など、1年次の経験から工夫が見られる。文様についても独自なデザインを考えるなど、真剣な取り組みが感じられる。
今回、先生は各々の制作を見守る側に立ち、受講生が困っている時や誤った方法を取っている時にアドバイスされたり、また自らやってみせるという立場を取られた。文様を作るのに夢中になり、土の水分が失われていくと、他のパーツとのむらを生じ、乾燥段階でひずみとなり割れてしまう。「そのパーツをビニールに包んでおくように」先生が度々声をかけておられた。
実技は作品を素焼きする所までで終了となった。その間にも、割れた作品の修理の方法やデザイン上の注意など、先生より多くの指導がなされた。
期間中の1日、茨城県陶芸美術館において、松井先生のコーナーを見学する時間が設けられた。作品の1つ1つが、長年の研究の成果と綿密な計画、そして努力の積み重ねによって成り立っている事を各々再認識する事となった。
平成13年5月、受講生めいめいが持参した作品を前に講評会が催された。先生は1つ1つ手に取って各自の作品についての感想を披瀝された。
受講生たちは2年度にわたる貴重な体験を基に、更に研鑽を積んで、独自の陶芸を確立してゆくことだろう。オリジナル作品の制作
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「君たちは工芸会正会員だから何をなすべきかよく考え、独自の世界を創ってほしい。」
東京国立博物館での開講式の松井康成先生のお言葉です。全国から集まった研修生10名は選ばれた者の責任を感じ、身の引き締まる思いでした。
第1年次は唐宋の絞胎(こうたい=練上げ)碗の復元が課題で初日のこの日、館蔵品を手に取って精察させていただきました。2日目は松井陶房に集合。早速鶉文、網代文などのパターンを先生が実演して下さる。縞状の土を組合せて文様を織り出す先生の手捌きはメモの手も追いつかないほど速く、少し位の土の隙間、文様のズレ等拘らない。往時の匠も斯く在りてあの軽やかな文様を生み出したのか、と感じ入りました。
第2年次の課題は独自の文様の器を作る事。各々が焼成してきた1年次の紋胎碗を先生に鑑ていただいたあと、個人作業に入りました。紋胎の各種を組合せる者、一部攪胎(かくたい=練込み)を取り入れる者。初日5時には全員が鉢皿、花器、陶筥等をほぼ作り上げました。あとは自窯で焼成し来夏持寄る予定。研修は終っても研究は続け、交流しつつ技術の向上をめざそうと約して笠間を辞しました。
執筆者:松井 康陽(陶芸部会)
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