活動報告
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1996年9月14日(土)1日目
初日はルビノ京都堀川において、研修会の進行及び内容が示された後、北村武資先生からスライド映写による「織技の応用と展開」と題して講義を受けた。作品スライドを見ながら、制作意図と織技術・織組織の研究と応用について、制作当時の思いを伺うとともに織物に対する基礎姿勢を学んだ。
その後、場所を実習の場となる北村工房に移して見学した。工房機場
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1996年9月15日(日)2日目
織機を組み立てるところから始まった。まず骨組を組み立て、千切・鳥居・踏木・付属部品等を取り付けていく。そして最後にあらかじめ準備してあった綜絖と筬、経糸を設置する。
北村先生自らが機の調整、織り出しの手本を示された後、全員が順次試験をする。機の調整、織り出し指導
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1996年10月12日(土)・13日(日)3・4日目
いよいよ実習が始まる。2人ずつ組になって準備された機で作業を行った。第1年次が6種類7台、第2年次が6種類6台で、合わせて8種類の織機であった。
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1996年11月9日(土)・10日(日)5・6日目
北村先生の羅織を見せていただいた。複雑で繊細な機がリズミカルに動き、糸がからまっては解けて、まるで魔法をみているようであった。
つづいて近くの川口工房で最新の自動織機を見学した。
再び実習。今回からは新しく下図を自分たちで考え、紋図を描き、紋綜(紋様を織りあらわすための工夫)を入れ直して織り進めていった。途中、特別講師として佐藤四郎氏を招き、紋綜の作り方や綜絖について学んだ。 -
1996年12月14日(土)・15日(日)7・8日目
研修生全員が順次交代で6種類の機を確実に織りこなす事を目指した。
第1年次の締めくくりとして、京都府無形文化財保持者による「伝統と創生」展(京都文化博物館)を鑑賞し、反省会も行った。羅機実習
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1997年4月12日(土)1日目
京都文化芸術会館において、第1年次研修会の記録ビデオを見て基礎実習を振り返った。次いで特別講師として切畑健先生(大手前女子大学教授)を迎えて「織の魅力―組織の不思議」と題して、スライドにより名物裂の組織と特徴について、ご講演いただいた。
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1997年4月13日(日)2日目
第2年次の実習がスタートした。綟織を主とした機が用意され、各々の機についての説明があり、その後試織した。とくに羅の機の試織が中心となった。
製織指導
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1997年5月10日(土)・11日(日)3・4日目
松下美術苑真々庵において庭園を鑑賞し、重用無形文化財保持者の展示作品を見学。その後の実習により各々の機の構造・特徴・操作の理解を深める。
製織実習
経糸つなぎの実習
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1997年6月14日(土)~7月13日(日)5~8日目
全員がそれそれの機に向かえるように組まれたカリキュラムにしたがって織りすすめる。最終日、受講生がある程度の長さに織り上げた裂について話し合いの場を持ち、研修は終わった。
研修会で使用された機について記す。
1.紋綜機:平組織に経糸を持ち上げる紋綜絖を工夫したもので、平織の間に紋糸を通し織紋をあらわす。
2.綾紋綜機:綾組織に紋綜絖を加えて織紋を綾でとじる織り方。紋糸を入れることにより綾とじ紋様が入れられる。
3.フルエ機:平組織にフルエを加え、平織・紗織・絽織・綟り変化織が織れるように工夫し、平綜絖の粗、密も加えて変化をつけた機。
4.紋紗機:平組織にフルエを加え、平織と紗織を組み合わせて地紋が織れるように工夫した平織。
5.綴機:平組織で経糸にゆとりを持たせて、経糸をつつみこむように織る。経糸で文様をあらわす。
6.紬織:経糸の機つなぎがの技法をデザインにとりいれた平組織の機。太い紬糸で織る。
7.経錦機:色別綜絖と地綜絖によって経糸で紋様をあらわす。母偉(おもぬき)により組織を作り、陰緯(かげぬき)によって紋様をぬいとる。
8.紋羅機:地・フルエ・紋の3つの綜絖を操作して、籠綟りと網綟りによって紋羅を織る。
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私は「研修」を受けている間、しばしばある映画を思い浮かべていた。キューブリック監督、「2001年宇宙の旅」である。人類の夜明け、猿がひとつの骨片をつかんで地面にたたきつけたりするうちに、目覚めて、ヒトへの進化を始める。そしてその骨を空高く投げると、それが時空を超えて変化して、先進の宇宙船とないる、というものだ。
私達研修生はまさにあの猿ではなかろうか。遠い未来からある種の啓示の如く、骨片を渡して下さる北村先生。茫然として、しかし興味深く、わけもわからず夢中になっている猿。集まっては不明瞭な言葉で話し合い、仲間どうしで骨を投げあってゆく猿達。なんて楽しく、なんと大切な事を頂戴したことか、時が経つにつれ思いを深めている。
研修の初日は織機の組み立てから始まった。重量感ある木材、たて長の構造、初めて見るしかけ等、日頃使っている機とは異なるものができあがってゆく。それはこの先にある、未知なるものの存在を予感させてくれていた。経糸と緯糸の組み合わせの変化で、これ程表現が広がってゆこうとは、実際、先生は想像をはるかに超えた世界を次々に見せて下さった。
私達は圧倒されつつ、ただ手足を動かし、理解したいと願った。それは技法、技術だけではない。糸と、機ときちんとつきあうこと、機と自身の自由な関係、機の出発点にたち戻ることでもあった。
時は速く、研修にも終わりがきた。皆、言葉もなく、深く心に刻んだものをかみしめつつ、7台の機、すべての経糸を切った。
私達はそれぞれの生きる場所へ戻ってゆく。新しい核を抱いて。いつまでだろう、目覚めたばかりの私達は、自らの立脚点を確かめながら、細胞分裂をくり返す。
最後に、膨大な時間と場所をさいて、大きなお人柄で惜しみなくすべてを開放して下さった北村先生、あらゆる準備に奔走された細見さん、佐野さん、心より御礼申しあげます。
執筆者:研修会助手 細見 巧(染織部会)
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