「彫金」伝承者養成技術研修会(2023 - 2024 年)

桂盛仁先生による重要無形文化財
「彫金」の研修会

活動報告

  • 2023年9月18日(月)1日目

    第70回日本伝統工芸展が日本橋三越で開催中であったので、講師の桂盛仁先生と受講生5名が、金工の作品を鑑賞、質疑応答が行われた。
    桂先生の工房へと移動し、研修内容の説明があり、材料、鏨(たがね)、箆(へら)、粘土が配られる。鏨はあらかじめ桂先生が成型したものをご用意頂いた。
    研修のテーマとなった「高肉打ち出し」を選んだのは次の理由による。

    ・展覧会に出品される「金具」は多くが伝統技術で助けられているが、肉付けが悪いものもある。
    ・「金具」は、刀の目貫を始まりとし、煙草入れの前金具、明治時代に帯留めとなって技術が現代に伝えられている。金属で拵えた彫刻ではあるが、本物をそのまま縮小した立体や、箱腰(箱の上蓋だけに細工をしたような状態)が見られる。先代の桂盛行先生は、蓮の葉の上に転がる水滴と譬えられたとの事である。

    この説明の後に、昭和20年から30年の間に作られたと言われる金魚の石膏型と写真を見た。金魚は、細工がしやすいアカ(素銅)を打ち出しし、金魚の柄は受講生が自由にデザインして象嵌が出来るとの理由で題材に選ばれた。50×25mmの大きさの範囲内で、金魚を見ながら、鉛筆で紙に描いた。

  • 2023年9月19日(火)2日目

    写した図案に、赤(銅)、黄(金)、黒(赤銅)、白(純銀)を着彩する。油土で実寸大の原型を制作し、受講生一人一人が桂先生に手直しされながら指導を受けた。

    粘土原型制作

  • 2023年9月20日(水)3日目

    目や鱗(うろこ)、鰭(ひれ)の襞といった表面を作り込む前に、金魚の肉取り(肉付き)を取る。例えば目玉は顔から自然に出ているように作り込むやり方などが指導された。

  • 2023年9月21日(木)4日目

    粘土原型を正確に作らないと地金に移った時直しが難しくなるので時間を掛けて制作する。個々に先生の指導が入った。粘土原型が出来たら、図案をトレースして銅板に貼り、輪郭を毛打ち鏨で打っていく。銅板は1.2mm厚を最も多く使う。分厚いと打ち出すのに苦労し、薄いと象嵌が嵌まりづらいためである。

    打ち出し

  • 2023年9月22日(金)5日目

    焼鈍した銅板を砂袋の上に置き、イモ槌で叩いて膨らます。脂(やに)を詰めて表にしてピッチボールに付け、毛打ちの外側端金際に締め鏨を一周打つ。焼鈍をしてピッチボールの松脂(まつやに)をドーナツ状に窪みを作り、凹を移用して木鏨で裏出しをする。表にして脂付け、締め鏨を打った所から毛打ちまで下から上へ造り鏨で打ち寄せる。2回程打ち寄せたら金魚の象形を造り鏨で打ち、肉付けを作る。脂から剥がす度に焼鈍す。形が見えてくるまで繰り返す。
    ここで先生が、毛打ちの所まで腰寄せして腰を立ててしまうと金魚の形は見えてくるが、後々形の直しが利かなくなるので象形の肉付けを打ち作りながら腰を寄せる事が大事であると指摘、それを踏まえて個々に仔細に指導が入った。

    打ち出しを決める

  • 2023年9月23日(土)6日目

    肉付けの鏨打ち、腰寄せ、焼鈍の繰り返し作業が続き、その度に個々指導が入った。

    各自打ち出し

  • 2024年9月30日(月)1日目

    前期の肉付けが終わらず朝9時から20時まで取り組み、個々に細かく指導が入った。
    昔は周りが畑で、玉虫など昆虫が飛び込んできて作った手製の昆虫標本を見せて頂き、中には桂盛行先生の作品となった昆虫が保存されていた。今はインターネットで簡単に画像検索してデザインを起こすが、実物を見て写生、デザインして欲しいとの話があった。

  • 2024年10月1日(火)2日目

    金魚の肉付け作業に専念、表から叩き焼鈍し、低い部分は裏から出しの繰り直し。個々に肉付けの作り方に指導が入った。

  • 2024年10月2日(水)3日目

    肉付けの繰り返し作業が続いて金魚象形が出来上がってきた。但し各自進み方が違い、それに応じた指導が個人個人に入った。

  • 2024年10月3日(木)4日目

    全員金魚の象形作りが難しく、先生の指導の元、完成に向けて作業を続行。順次形が出来上がってきた人から、被金象嵌作業に入る。和紙で紋金が入る部分を写し取り、色金に貼り切り抜き紋金を作る。紋金裏に銀鑞を流し本体に溶着、鏨を打って密着させる。同時に置金象嵌も密着させる。

    被金鑞付け

    置金紋金合わせ

  • 2024年10月4日(金)5日目

    被金・置金象嵌の出来上がった人は腰を切り鑢(やすり)を掛ける。その後地金が破れた箇所の補修を行う。方法は先生の指導の元修理に入った。

    おそうじ(生下げ)

  • 2024年10月5日(土)6日目

    補修する人、腰を整える人、手順の進み具合に応じて先生の指導が細かく入った。その後図柄の平象嵌に入る予定だったが補修に手間取り、平象嵌技法の説明を仔細に話して頂き、各自自宅での作業となる。
    研修期間を3日間、別日で延長する許可を得て続行する事になった。

  • 2024年10月21日(月)7日目

    <補講1日目>
    象嵌の嵌まらない人、追加象嵌を行う人は象嵌作業を行い、一人一人に技法の指導が行われた。

  • 2024年10月22日(火)8日目

    <補講2日目>
    嵌め終わった人は鑢、炭研ぎ、磨きを行い、鰓(えら)、鰭、鱗に最後の仕上げ鏨を入れた。入れ方の技法にも細かい指導が個々に入った。

    仕上げ鏨打ち

  • 2024年10月23日(水)9日目

    <補講3日目>
    最後の磨きを行い、緑青1に対し硫酸銅1の割合の煮色液を沸かし、重曹と炭粉を混ぜた粉をブラシに付け金具を胴擦り(どうずり)、大根おろしに浸して煮色液に入れ約2時間煮る作業が行われた。間に合わない受講生は自宅で仕上げる事として、今回の研修会は終了となった。

    色上げ

  • 全体総括

    2年に亘る研修は夏に行われ、稽古場で一斉に火を使うために一層暑かったものであった。手本は皆同じでありながら、制作が進むにつれて、研修生の持ち味がそれぞれ現れるものだと思った。桂盛仁先生の、先祖代々からのお道具や石膏型を拝見しながらのお話から、未来の工芸について研修者同士で話し合えた事が、とても印象に残った。

  • 「肉とかたち」2年間に渡る桂盛仁先生の「彫金」伝承者養成研修会を一言に集約するとこう言い表す事ができるだろう。「肉」とは立体感を司るモチーフの高低の形態、「かたち」は主に輪郭の形態という理解で書き進めたい。私たちは金魚の帯留め金具制作を通じ、打ち出しの技法において「肉」と「かたち」がどう互いに作用しながら制作が進んでいくか、その一端を学ぶ貴重な機会を得た。
    研修会は本展の鑑賞から始まり、桂先生から金具の構図における「肉」と「かたち」について、入選作を参照しながらご講義いただいた。技術面よりも、制作前の構想と粘土モデルの重要性を強調されていた点が何より印象的であった。先生のご自宅へ移り一日半続く、金魚の下図と油土モデルの制作が始まった。幅55㎜×高さ25㎜程の半立体モデルを目指すが、受講生たちは久々の油土に苦戦する。そんな様子を観察しつつ、先生はにこやかに「作品制作においては、構想と粘土に最低2週間はかけて欲しい。」と助言下さった。その言葉の真意を受講生が実感するのは後のことだった。厚さ11.2㎜×90㎜×60㎜の地金に金魚の輪郭を点打ちし、打ち出し作業を開始する。脂台に地金を貼り付け、先生が準備して下さった鏨を用い油土モデルを参照しながら「肉」を叩き出し、地金が薄くならないよう外縁から叩き「寄せる」作業が続いていく。
    この作業は受講生も経験しているものであるが、桂先生の手順は学校などで学ぶそれと少し異なる。学校などでは「肉」と「かたち」の作りを同時進行に近いペースで進める事が多いが、先生からは「しっかりと「肉」ができるまで「かたち」を寄せすぎないこと。」とご指導いただいた。それは後に「肉」の修正をしたいと思っても地金が動かなくなってしまうとの理由からであった。しかしこの手順に従うと「かたち」が見えにくい中で「肉」を判断するのが難しく、そのため先生が初めに強調されていた「粘土の段階で肉とかたちのイメージを明確にすること」の意味を深く実感するにいたった。そして「お手本に」と先生が叩きだすと文字通り、金魚が生き生きと動きだすのであった。漸く打ち出しの作業を終えた後の象嵌の段階においても、先生のご指導は目を疑うほどの技術と工夫が詰まったものであった。しかしそれ以上に驚きだったのは先生が発せられた(そういう作品はそうないという前提で)「究極的には、肉とかたちでモチーフを表現できれば象嵌や装飾がなくてもモチーフは生きてくる!そこを目指して欲しい!」というお言葉であった。
    研修会において技術の習得は主たる目的であるが、それ以上に造形への意識を新たにする大変貴重な機会となった。数々の金言を下さった桂盛仁先生、受講生たちを暖かく激励くださった助手の北東尚呼先生、文化庁並びに日本工芸会の皆様へ心より御礼申し上げます。