「鍛金」伝承者養成技術研修会(2016 - 2017 年)

田口壽恒先生による重要無形文化財
「鍛金」の研修会

活動報告

  • 2016年10月3日(月)1日目

    初日は、田口先生から作業のあらましの説明と注意事項のお話を頂いて作業準備に入った。今期の目標は器体の成形までを目指す。作業は焼き鈍なまし、打ち上げの繰り返しとなる。
    研修所はビルの2階にあるフロアで、人数分の場所作りをしてから。支給された四分一の地金(2.2mm厚18cmの正方形)から、自分のデザインした形に見合った地金取りをする。底の直径が6cmの鉢が条件。円形が無難ということでほとんどの受講者の形が丸形の回転体なので、円を毛描き糸鋸にて切り出す作業となる。
    午後からの作業はお借りする道具や手持ち道具を使用する以外の何人かは延べ鎚を作る作業から始まる。グラインダーで角を落とし程よい丸みを付けて磨きだした後柄を挿すげた。大体の準備ができた段階で、田口先生の作業の見本を見せて頂く。まずは縁の厚みを残すようにして、外周から円を描きながら中心に向かってたたき始めるとのこと、これを数回やった後中心部から外周に向かってたたく。お話の中で地金は固く暴れる性質なためその都度直し直したたくとよいとのこと、やっていくうちに歪みも取れていき、やりやすくなる。全体をたたいたら歪みを取り焼き鈍しとなる。地金は銅と銀の合金で融点が低くなり、明るい所で焼き鈍しをすると状況が判りづらく溶かしてしまうことがあるので、注意が必要だった。作業する場はお借りしているためその環境に無く、遮光カーテンで火床周りを覆うが十分でなかったので、皆さん苦労していたようだ。焼き鈍しの後は徐々に冷やす。
    全員で打ち上げの作業に入るとかなりの騒音となり、自身の耳にもかなりの刺激音が襲ってくる受講者も、防音の耳当てや耳栓を使用することになる。街ゆく人は普段聞き慣れない音に研修所のビルを見上げながら通行していた。慣れない作業、道具のために金鎚の柄にテニスのグリップテープを巻いて滑りにくくする人など、徐々にいろいろなアイテムが増えていくのが興味深い。

    事前説明

    地金(四分一)取り 糸鋸で切っている

  • 2016年10月4日(火)2日目

    お昼休みを挟んで全員が本格的にたたきだす。朝から、ひたすらたたく、焼き鈍すことの繰り返しで終わる。

    焼き鈍し

  • 2016年10月5日(水)3日目

    3日目ともなるとそれぞれの受講者はたたくことを10回以上繰り返していることになり、形状も皿状からずいぶんと立ち上がり、午後になると器の形を呈してくるようになった。

    打ち上げの仕方の実演

  • 2016年10月6日(木)4日目

    この日も、一日中ひたすらたたくが、思うように打ち上がらない。地金の抵抗がまだあるようで、固さが腕に伝わる。音も高いままうるさい。早い人は望む形状になり、当金を利用して表面を均ならしたり胴中に凌ぎをたたき出したりしていた。

    数回打ち上げしたところ

  • 2016年10月7日(金)5日目

    それぞれの進度で、凌ぎを出して面取りにかかり砥石で荒研ぎに入った人、打ち上げを完了し均しに入った人、打ち上げ続行中の人と、作業がまちまちになってきた。午後もそれぞれの進度で作業続行。

    作業風景

  • 2016年10月8日(土)6日目

    一年次最終日。打ち上げが全員終了し均し作業になった。研ぎの人も順調に先へと進み、様々な形の鉢が見えた。
    研ぎに入った人以外にも砥石・研炭が支給された。
    ケミカル砥石#400・#1000、名倉砥、朴炭、桐炭の5点で次期の二年次までに外側の研ぎは持ち帰り宿題となった。

  • 2017年10月2日(月)1日目

    1年振りに皆さん集合する。最終日は煮色仕上げがあるため、作業できる日は実質1日少ない。
    2年次が始まるにあたり田口先生より諸注意、完成目標を告げられ、それぞれの受講者の進度で作業にかかる。宿題であった炭研ぎを終えた方は、形に合った当金にて胴体表面を均す作業をする。均しを終えた方から内側の炭研ぎに入る。歪みを取るための焼き鈍しをする受講者とで作業に開きがあった。

    砥石で研ぐ(酸化膜を取る)

  • 2017年10月3(火)~4日(水)2~3日目

    均しをする方、内側の炭研ぎする方続行中。

  • 2017年10月5日(木)4日目

    均しを終えた方も内側の炭研ぎへと移行。砥石や研炭はある程度の大きさがあり、内側の凹んだ所は大きい動きが取れず時間もかかる。胴中に鎬を付けた方は余計に細かい作業となる。

  • 2017年10月6日(金)5日目

    ケミカル砥石2種、名倉砥石、朴炭、桐炭と順に使い、全員炭研ぎに入る。最終段階で胴刷り刷毛(女性の毛髪で作った刷毛)での炭粉で胴刷りをして終える。午前中で仕上げ前の作業完了者が出た。翌日の最終日に仕上げ師の原金彩加工所の場所確認と仕上げ前の処理のために受講生と助手の田口典子さんが作品を届けに出る。午後にかけて全員が所定の目標にたどり着き、仕上げ前の完成を見た。

    整形後の最終段階

  • 2017年10月7日(土)6日目

    最終日、原金彩加工所に集合。
    前もって届けてあった作品に、原さんが作品表面に金剛砂や黄銅線の細かく刻んだ荒し用の粒を当て、表面の艶を若干落としてくれた(パラ打ち・パラ掛け)。
    作業場では煮色作業のための銅鍋に水が張られ、硫酸銅、緑青の薬品が投入され温められ、それに少量の梅酢を加えた。下準備を整えて二人の受講者が原さんの指導の下、煮色作業を体験する。ムラが出ないように重曹を付けたスポンジで何回か表面を手際よく当たる。後、大根おろしの搾り汁で洗い煮色液に浸け、上下に揺らし動かす。ほどなくすると四分一の煮色仕上げの色が呈してくる。
    一点一点丁寧に仕上げるにはそれなりに時間が必要となるため2年間に渡る研修は一応これで終了となり、残りの作品は原さんに託し、2年間にわたる伝承者養成研修会を解散した。後日完成の知らせを受けて田口さん宅へ出向き全作品を拝見、研修会の終了を見た。なお筆者も特別に体験させて頂き、大変勉強になった。

    煮色仕上げをしているところ

  • 今回の研修会で扱う「四分一」という素材は非常に硬く、叩いて成形するのが困難な素材という印象を持っていました。普段、銀や銅などの柔らかい素材を整形する時は、「絞り」という地金を叩き寄せていく技法を用いるのですが、今回は地金を打ち伸ばしていく「打ち上げ」という技法です。硬い「四分一」を、初めての「打ち上げ」を用いて器を作るのを非常に楽しみに研修会に参加いたしました。
    円形に切った厚さ2.2mmの四分一板の口縁部以外を、金床の上で叩き伸ばしていくのですが、普段は軽く小さな金槌を握る機会が多いので、手を痛めない金槌の握り方や腕の力を使わず金槌の重みで打ち降ろす等のアドバイスを頂きながら、ひたすら金槌を振り降ろす工程が続きました。
    始めは板状だった四分一が少しずつ伸びて丸みを帯びていくと、上手く芯を叩けずに打ち損じる事があり、その際は鈍い音がします。
    打ち伸ばす時の音はとても大きく響き、尚且つ六人が同時に叩いているので、私も耐えきれずに3日目から耳栓をするようになったのですが、田口先生は平気な顔をされて各研修者の鎚音に気を配られてアドバイスをされていたのがとても印象的でした。
    六日目にようやく目的の深さまで地金が伸び、底を作ったり、鎬を入れたりしたのですが、柔らかい素材に比べて、硬い四分一の場合は底をきっちりと作るにも非常に苦労しました。
    研修最終日には色上げ師の原さんの工房で煮色着色をして頂きました。自分で煮色着色をする時とは、煮色液の濃度、温度、着色時間等、様々な所で違いがあったので、着色の工程を見学出来た事は非常に良い経験になりました。
    「四分一」は硬い分、銀や銅に比べて作業量に対しての形の変化が緩やかで、非常に根気のいる素材であるという事。
    「打ち上げ」は口縁部が厚い為、見た目の重厚感に対して、器の重量が軽く出来上がるという特徴を感じました。
    今回、「四分一」という素材、「打ち上げ」という技法について学べた事は勿論ですが、十二日間で彫・鍛・鋳の分野を問わず講師や研修者同士で交流出来きた事も非常に良い経験となりました。
    田口寿恒先生をはじめ、助手の田口典子さん、大沼千尋さん、色上げ師の原さん、工芸会関係者様、研修会場や道具を御提供頂いた東京金銀器工業協同組合様、及び今回の研修会の関係者の皆様に深く感謝申し上げます。