
講師紹介
- 中川 衛
- なかがわ まもる
- 重要無形文化財「彫金」保持者
実施概要
- テーマデザインの発想と展開
- 講師中川 衛
- 期間2023年11月9日(木)~10日(金)
- 会場国立工芸館 2階 多目的室
- 特別講師浅野隆氏(金沢美術工芸大学製品デザイン教授)、東四栁史明氏(金沢学院大学名誉教授)
- 助手1名
- 受講者17名
実施報告
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2023年11月9日(木)
まずはじめに、中川先生より挨拶・2日間の流れの説明を受け、その後、東四栁先生による講演会を聴講する。石川県には意外にも国宝が少ないということで、国宝のほか、国指定重要文化財や無形文化財保持者についての説明を受ける。国宝に認定される難しさや、工芸品の文様からわかる歴史・時代背景、また、金沢の歴史や加賀藩といった地域性・風土でなぜ工芸が栄えてきたかという話に、受講生は興味深く耳を傾けていた。
浅野先生による「アイディアディベロップメント」は、実際に金沢美術工芸大学のデザイン科で、長年行われている授業を簡略化したものである。受講生一人一人に魚のフィギュアが配布され、それを10方向からスケッチをする。その後、スケッチをもとに、様々な条件・様々な素材でデザインを展開していく。
1.点のみで表現
2.線のみで表現
3.面で表現
4.誇張による表現(横に倍にする。1部分のみを倍にする)
5.カラーセロファンによる表現
6.アルミホイルによる表現
7.様々な素材で表現(マッチ棒、毛糸、麻紐、ボタン等)
思いもよらない条件や素材での表現に悪戦苦闘する受講生に対し、中川先生・浅野先生から「考えていいアイディアを出そうとするのではなく、とにかく手を動かすことで、自分が考えつかないアイディアを出すことが目的だ。」と声がかけられていた。講評会では、出来上がった課題を床に並べ、受講生一人一人が感想を述べた。慣れない実習に「難しかった」との声が多く出ていたが、先生方から「柔軟な発想と既成概念の打破の大切さ」を伝えられ、1日目は終了となった。東四栁先生による講演会
浅野先生による「アイディアディベロップメント」
執筆者:研修会助手 前田 真知子(金工部会)
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2023年11月10日(金)
唐澤館長より、工芸館の金沢における位置づけや建物についての解説、工芸館の活動理念。また、収蔵作品の概要を聞く。その他、「工芸とは何だと思いますか?」という問いかけから、作り手の目線と一般人から見た目線のずれの認識、自分の立ち位置、話題としているカテゴリーを共有することの大切さ等、各々が「工芸」とは何かを改めて考えさせられる内容であった。
中川衛先生による「アイディアの展開法」では、まず、スケッチブックに約10分間、思いつくだけの鞄のデザインを描いた。その後、中川先生から、アイディアの展開法についての講義を受ける。「感性」で生まれたアイディアを、「理性・悟性」で発展させる実践として、前日の実習経験をもとに「花」をテーマとし、アイディアを描けるだけ描いた。はじめは、考えながら手を動かしていた受講生も、次第と自由に展開が出来るようになり、筆のスピードが徐々に上がっていっているようだった。次に、デザインを立体に落とし込む訓練として、「自分でデザインした花をA4の画用紙上に展開し、紙を丸めて円柱を作る。」という実習を行った。出来上がった立体を一同に並べ、講評会となった。総評の後、中川先生の作品と、その作品のデザインの元となった物のスライドを見ながら解説を受けた。
この後、駆け足ではあったが、受講生が自己紹介を兼ね、自分の作品の紹介と2日間の感想を述べ、各々が展覧会を見学し解散となった。
2日間の研修セミナーで、アイディアの種は至る所に落ちているので、既成概念を打破し、常に自由な感性で物事をとらえることを改めて知った。「元・企業デザイナー」のお2人の講師の先生からの実践的な講習会は、受講生にとって、今後の制作活動の励みとなる、とても貴重な時間となったと思う。実習の模様
実習作品の講評会
中川先生の講義
執筆者:研修会助手 前田 真知子(金工部会)
講師のひとこと
研修セミナーでは「古きを尋ね、新しきを求める。」をテーマにして講義とデザイン実習を行った。前半は東四柳先生による石川県内の文化財の現状と、国立工芸館の唐澤館長による工芸館所蔵作品の説明と収蔵目的についての講義を受ける。その後、作品制作のための既成概念の打破、発想力の向上をはかる実習と、文様や造形のデザインをより多く創出するため、発想したもの(感性)を整理、発展させ、完成度を上げる(悟性)のデザイン展開方法の実習を行った。これらの発想法やデザイン展開は工業製品開発から工芸品、美術作品の制作に必要不可欠なものと思っています。工業製品では多くの方に好まれるもの、安全であること、生活に役立つようにデザイン展開します。伝統工芸作品では技術研鑽による技の美しさは勿論であるが、デザインによる作品の楽しさ、粋さも求めていきます。現存の作品は最早、過去のものであり新しい感覚のものを求めて行き、多くの方々に愛されてもらい、また海外の方にも理解される作品造りの重要な工程としてもらいたい。受講生はこれらの実習は初体験だったが、真剣に取り組み少しでも把握しようとする強い意志を感じました。
実施スケジュール