
講師紹介
- 十四代 今泉 今右衛門
- いまいずみ いまえもん
- 重要無形文化財「色絵磁器」保持者
実施概要
- テーマ有田の地で学ぶ~風土と伝統工芸の関わり
- 講師十四代 今泉 今右衛門
- 期間2022年10月2日(日)~4日(火)
- 会場今右衛門窯、佐賀県立九州陶磁文化館 他
- 特別講師京極夏彦氏(小説家)、板橋廣美氏(国際陶芸アカデミー会員 (IAC) )
- 助手2名
- 受講者21名
実施報告
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2022年10月2日 (日)
講演会14時~ 会場:佐賀県立九州陶磁文化館 講堂
京極夏彦氏は小説家であり言葉をあやつるお仕事がゆえに、様々な「言葉」について講義していただきました。風土について、「風」は暮らしを時代で切ったものである風俗学と、「土」は暮らしを地域できったものである土俗学が合わさった言葉ということお話から始まりました。
言葉は文化であり、事物だけではなく概念をも現すものであるというお話から、「工芸」、「芸術」、「文化」、「伝統」などの言葉を語源や概念などによって紐解いて頂いたとても興味深いお話をいただきました。
最後に、今回のテーマである「風土と伝統工芸の関わり」のまとめてとして、京極先生は「風土にある『風』とは、時代時代で変化していくものであり、伝統工芸とは、その時代に合うように常にカスタマイズしなければいけない。それが、伝統を受け継ぐものの義務である」と話されていました。
次に、九州陶磁文化館長の鈴田由紀夫先生も迎えて、受講者とのディスカッションがあり、「こだわり」について多くのディスカッションが行われました。また、住居と伝統工芸の創作との関わりについて、産地ではない土地で創作する受講者に対して京極先生は「その地に居座ることに意味があり、そこから伝統になる」と仰っていた言葉が印象的でした。京極夏彦先生、鈴田館長、今泉先生とのディスカッション
執筆者:研修会助手 庄村 久喜(陶芸部会)
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2022年10月3日(月)
・午前
1.今右衛門窯・今右衛門古陶磁美術館見学、今右衛門本家での御茶、晩香窯見学
・午後
2.佐賀県立九州陶磁文化館見学
3.講演会14時40分~ 会場:佐賀県立九州陶磁文化館 講堂
午前中初めは、2つのグループに分かれ、今右衛門窯の見学、今右衛門御本家での御茶、近隣の晩香窯の見学を行いました。
今右衛門窯では、有田のロクロ成形、絵付け、釉薬掛けなど、それぞれのスペシャリストが分業することで、クオリティー高い作品を作り出す現場に受講者一同、とても興味深く見学されていました。その後、隣接する今右衛門古陶磁美術館の見学では、今右衛門窯の歴史の解説とともに、江戸期の鍋島焼を実際に手に取って熟覧するなど大変貴重な体験をさせていただきました。
午後からは、鈴田由紀夫館長のご案内で、九州陶磁文化館を見学しました。有田の陶芸の始まりから現在までをユーモアを交えてお話しされました。
その後、板橋廣美先生の講義が始まりました。素材に拘らず形を作ることが好きだった幼い頃の板橋先生は、日本画家の祖父にいろんなことを教わったり、姉のためにプレゼントした抹茶碗がとても喜ばれ、それがきっかけとなり大学の頃には陶芸教室に通ったりなど、「その道というのは、必ず運命と共に作られている」と仰っていました。また、「地域性が大事だが、焼き物産地で生まれ育ってないのでそれがなく、焼き物を客観的に観て、好きでこの道に入った」と仰っていました。最後に「球体がすべての形の原点」とおっしゃる板橋先生の様々の作品をスライドで拝見致しました。
次に、九州陶磁文化館長の鈴田由紀夫先生も迎えて、受講者とのディスカッションがありました。伝統的な仕事と伝統的ではない仕事についての問に対して、板橋先生は「伝統的な技法やその空気感にとてもリスペクトをもっている。伝統的でない仕事であっても常にそれがベースにある」と話されていました。「伝統でない仕事をしていることがすでに伝統を意識している」という言葉が印象的でした。今右衛門古陶磁美術館見学
今右衛門窯見学
庄村氏の晩香窯見学
板橋廣美氏とのディスカッション
執筆者:研修会助手 庄村 久喜(陶芸部会)
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2022年10月4日(火)
・午前
1.泉山磁石場、有田町の窯跡見学、受講者の作品紹介
最終日は有田町歴史民俗資料館館長の村上伸之先生のご案内で泉山磁石場と窯跡の見学をしました。有田が磁器産業を通してどのように栄えていったのかを各窯跡を前にして説明されていました。その後、受講者が持参した作品とともに自己紹介をし、具体的な素材、技法に関するもの、制作に対する考え方などの意見交換がなされました。
後日提出された受講者からのアンケートでは、「何かを作っている場所や人にはパワーがあり、今回の研修はそれが集結されていた」、「『土地』を深く考え『風土』を意識することはどんな土地で制作していても大切だと感じた」、「今右衛門先生は日本伝統工芸展の趣旨にある『伝統は生きて流れているもので永遠に変わらない本質を持ちながら、一瞬も止まることのないのが本来の姿である』という言葉を大切にし、それを実践されていることを深く実感する研修でした」等の感想が寄せられ、今後の創作活動に向けて得たものが大きかったことが伺えました。泉山磁石場見学
講師陣とのディスカッション
執筆者:研修会助手 庄村 久喜(陶芸部会)
講師のひとこと
令和2年度から始まった「伝承者養成研修会 研修セミナー」。2回目の今回は令和4年1月に予定していましたが、新型コロナ蔓延の影響もあり2度の延期という事態を受け、令和4年10月にようやく開催出来ました。
このセミナーは従来の「重要無形文化財伝承者養成研修会」とは異なり、数日間、部門・地域を問わず50歳以下という幅広い方々への企画であり、技術を伝えるというより、伝統工芸に対する考え方、心構えを伝える事が目的であると思っています。
今回は、陶芸の産地である佐賀県有田町で開催することもあり、この地でしか実感出来ない「風土が何を生み出すか」をテーマとし、各分野の講師を招きディスカッションを交えた研修会としました。伝統工芸は自然や人との関わりの中で取り組む仕事であるために、それぞれの作家が1度は真剣に考えないといけない事案であり、今回の体験が今後の仕事に何らかの繋がりをもたらすことだと思っています。
この企画はこれから毎年続いていくものと思われます。次世代の多くの方々に参加していただき、各分野の講師の先生の様々な視点から伝統工芸の本質が伝わっていくことを願っています。
実施スケジュール