研修セミナー「鍛金」(2025 年)

大角幸枝先生による重要無形文化財
「鍛金」の研修セミナー

講師紹介

  • 大角 幸枝
  • おおすみ ゆきえ
  • 重要無形文化財「鍛金」保持者

実施概要

  • テーマ
    金工のわざと美術品の取り扱い方
  • 講師
    大角 幸枝
  • 期間
    2025年1月9日(木)~10日(金)
  • 会場
    東京都立工芸高校実習室(1月9日)、東京藝術大学大学美術館(1月10日)
  • 助手
    1名
  • 受講者
    12名

実施報告

  • 2025年1月9日(木)

    ・「鍛金」実習(錫板から小皿をつくる)

    研修1日目は、直径10cm、厚さ約1.6mmの錫の円板に,鉄釘で模様を打ち込み、木槌で叩いて成形して小皿を制作しました。
    講師、受講者の紹介の後、大角先生が事前に制作された見本の小皿を拝見しながら、素材や道具、工程の説明があり制作に入りました。
    釘頭を金鎚で叩き、釘の先端を錫板に打ち込んで、点描のように少しづつ模様を描いていきます。
    金工部会の受講者には慣れた作業ですが、それ以外のほとんどの参加者は金属を扱うのが初めてだったため、はじめのうちは釘を叩く鎚音がゆっくりと慎重に感じました。
    それでも、時間の経過とともに徐々にコツを掴んでリズミカルな鎚音が聞こえるようになり、それぞれが個性的な模様を描いていました。
    模様を打ち終わると成形の工程へ移ります。
    「錫は非常に柔らかい素材なので扱いが簡単と思われがちだが、口縁部分の肉が寄りにくいので成形が難しい素材である。」と説明を受けながら、砂袋と木槌で成形します。
    なかなか器状にならなかったり、口縁部に皺が出来てしまったり、皆さん自分の目指す皿の形になるように試行錯誤している様子でした。
    「力の加減がわからず、なかなか形が立ち上がらなかった。」
    「肉が逃げてしまい、形をつくるのに苦労した。」
    といった感想が聞かれました。
    時折、大角先生がお手本を見せて下さると、綺麗な器状に立上がっていく錫板の様子に皆さん驚いていました。
    約2時間半という短い時間でしたが、受講者それぞれの個性溢れる小皿が出来上がりました。
    錫という柔らかい素材故の難しさを体験し、「素材との対話を大切に」という大角先生の言葉が、とても心に沁みる研修1日目となりました。

    終了後、同様の研修が東京都立工芸高校の2.3年生を対象に行われました。
    未来の工芸家たちが目を輝かせながら小皿を制作をしていたのがとても印象的でした。

    実習前の説明

    模様の打ち込み作業

    大角先生による指導

    出来上がった小皿

  • 2025年1月10日(金)

    ・金工の名品の熟覧(彫金、鍛金、鋳金)
    ・美術品の取り扱い方、保存、展示等に関する講義

    研修2日目は、東京藝術大学大学美術館館長の黒川廣子先生を講師としてお迎えしました。
    午前は、美術作品の取り扱いの基本や注意点、作品展示の心得や原則を黒川先生にご講義いただきました。
    制作する側とは異なる美術作品との向き合い方や考え方を、皆さんとても新鮮に感じているようでした。
    その後、東京藝術大学大学美術館所蔵の金工の名品と、大角先生所蔵の金工作品の計10数点を熟覧しました。
    明治から昭和にかけての彫金、鍛金、鋳金の名品達の細かな部分や裏面をすぐ間近で鑑賞したり、手にとって作品の重さや素材の厚みまでも感じることができました。
    重厚な印象の見た目に反して、手に取ってみるととても軽い作品もあり、驚きの声が多く聞かれました。
    また、作品だけではなく桐箱や共布も一緒に拝見することができ、箱書きや落款にまで各作家のこだわりや個性を感じました。

    午後は、各工芸素材ごとの注意点と桐箱についてのご講義と、茶碗を用いて美術作品の扱い方を学びました。
    実際に様々な種類の桐箱を目の前にしながら、印籠蓋や桟蓋など蓋の形状の違い、四方掛けやつづら掛けといった紐の結び方、真田紐の通し方や紐先端の房とりの方法まで、とても詳細にご教授頂きました。
    最後は、美術作品やその付属品の扱い方を学ぶ実習で、仕覆、桐箱、風呂敷の順に包まれた茶碗を数点ご用意していただきました。
    受講者は、包まれた順に紐や結びを解いて茶碗を取り出す。そして逆の順に包み、収める。というのを繰り返し練習しました。
    風呂敷、桐箱の紐、仕覆、全て「結ぶ」という行為ながら全てが異なる結び方で、特に仕覆の紐の結びは初めて経験する方が多く、皆さん何度も何度も繰り返し練習していました。

    研修2日目は、美術館や博物館での通常の作品鑑賞では得られない体験と、普段の制作活動からだけでは学べない工芸家としての知識や教養の基礎を身に着ける良い経験となりました。
    「とても充実した2日間だった」
    「ぜひ次回の研修会も参加したい」
    全ての受講者から同様の感想を頂けたことからもわかるように、大変有意義な2日間の研修会となりました。

    金工名品の熟覧

    黒川先生による美術品の取り扱い方講義

講師のひとこと

2日間を、鍛金という仕事の基礎的体得と、工芸作家としての常識や基本的素養を身に付ける実習とに分けて企画した。受講生は多部会にわたり、平面で考える染織作家と、立体で考える金工や諸工芸の作家とは反応に違いがあり、それぞれ素材の違いを超えて新しい発見があったと思われる。長い歴史の中で棲み分けが固定された観のある伝統工芸だが、将来的にはミクストメディアも盛んになって行くであろうことを考えると、このようなセミナーは有意義であると考えられる。
今回、特筆すべきは、鍛金実習で都立工芸高校の全面的ご協力が得られたことで、研修のための仕事場を持たない金工部会にとって、高校生との交流という副次的効果もあり、誠に有り難く、感謝感激の至りであった。また、東京藝術大学大学美術館では館長自ら博物館学の講義と実習を行って頂き、普段触る機会もない貴重な作品を熟覧し、扱い方を学んだことは貴重な体験になったと思われる。受講生諸氏には、この経験を活かして今後の制作に励んで頂きたい。

実施スケジュール

  • 1日目
    午後
    13時~ 都立工芸高校にて、大角幸枝先生による鍛金実習(錫板から小皿を作る)
  • 2日目
    午前
    10時~ 東京藝術大学美術館にて東京藝術大学美術館館長、黒川廣子先生による金工の名品熟覧美術工芸品の扱い方、保存、展示等に関する講義