「備前焼」伝承者養成技術研修会(2014 - 2015 年)

伊勢﨑淳先生による重要無形文化財
「備前焼」の研修会

活動報告

  • 2014年9月8日(月)1日目

    午前九時に研修者の皆さんが工房に集合しました。お互い顔見知りの受講生もあり、和やかな雰囲気の中で研修会が始まりました。そして、講師の挨拶に続き受講生が各々自己紹介をされました。
    その後、応接室に場所を移して本事業の研修概要説明とスケジュールが講師の伊勢﨑淳先生より説明されました。続いて岡山県立美術館学芸課長で、備前焼研究者の上西節雄氏より備前焼の歴史について約1時間の講義を受けました。その後、工房近くにある国指定史跡備前陶器窯跡の伊部南大窯跡・北大窯跡・天保窯跡を散策しました。特に南大窯跡とその周辺の物原など、そのスケール感に受講生たちも圧倒されている様子でした。さらに北大窯跡・天保窯跡と古備前時代の大窯の変遷を間近で感じ、産地の歴史の深さに感銘を受けたようです。昼食の後、現在の備前の街並、窯焚き風景など見学しながら工房へと戻り、講師が現在使用している穴窯の見学とその窯での焼成の狙いや、新窯の魅力についての説明があり、受講生も熱心に質問などをしていました。

  • 2014年9月9日(火)2日目

    午前9時に集合。焼締め陶である備前焼の重要な行程の土づくりの研修。作業工程の説明を聞き、乾燥した原土を金槌等で小さく砕き、小石や砂、また不純物を取り除く「より土」、そのような工程を経て出来た粘土から、さらに小石を取り除く「石より」作業の二組に別れての作業。作家各自が原土から陶土を造る備前焼の土づくり工程に、材料業者から土を買うことの多い受講生の皆さんは驚いておられる様子でした。
    午後からも二組に分かれ、轆轤成形と備前焼の成形・仕上げで使われることの多いヘラを作りました。まず、講師による轆轤実演がありました。備前焼の轆轤形成では、土の素性であったり、また、土肌の質感を大切にするために両手になめし革を巻いて轆轤を挽きます。実際に受講生の皆さんもなめし皮を使って轆轤形成をしました。そして、輪花鉢・耳付花入・茶碗を課題として制作。慣れない技法に戸惑いながらも熱心に制作されました。
    ヘラは竹を素材に、ヘラ目用や仕上げ削り用などを制作しました。

    土づくり(より土)

    土づくり(石より)

    轆轤形成(花入れ)

    轆轤形成(輪花鉢)

    ヘラの制作

  • 2014年9月10日(水)3日目

    前日轆轤形成にて制作した作品の乾燥を待つ間に、古備前の見学をするため京都市内にある京都市考古資料館へ参加者全員で出掛け、特別展示「桃山の茶陶‐備前と信楽‐」展を鑑賞しました。京都市中京区弁慶石町出土の桃山茶陶の出土品を中心に見学し、同館内にある京都市埋蔵文化財研究所の調査課長が講師の甥であったこともあり、収蔵品の中から備前焼を含め、桃山時代の茶陶などの陶片を実際に触れさせて頂きながら解説を聞くことが出来ました。

  • 2014年9月11日(木)4日目

    2日目に制作した作品の仕上げ作業。各自が作ったヘラを用いて作品の仕上げていきます。花入には、古備前にもあるような耳とヘラ目と言われる装飾を施しました。コシのある筆と使い勝手が違う硬い竹ベラでやわらかい線を出そうと意識しながらの練習です。そして、鉢には三つの足を付けて仕上げました。さらに茶碗の高台削りでは、轆轤形成時と同じく、仕上げた肌がそのまま焼き上がるので、ヘラの動きや土肌の質感などを意識しながらの技法を講師から指導を受けました。

  • 2014年9月12日(金)5日目

    窯詰め作業の見学。焼締め自然秞の備前焼では、詰め方次第で焼き上がりが大きく左右され、窯詰めは釉薬物で言うところの絵付けであると講師から説明を受けました。焼成技法の窯変と緋襷の詰め方を研修。助手が実際の窯の中で行われる詰め方を模擬的に窯の外で見せ、理解を深めて頂きました。そして受講生にも藁をどこにどれくらいの量を巻くかなど手本を参考に作業しました。その後は、各自轆轤形成やヘラ作りをしました。

  • 2014年9月13日(土)6日目

    今回の練習で制作した作品の仕上げを行いました。そして、講師より参加に当たって指示されていた受講生各自が普段使っている制作のための道具を持参して、各自が各々の道具の説明や使い方を解説しました。同じ陶芸であっても、産地や表現技法によって様々な道具があり、その使用方法などはとても興味深いものでした。
    充実した第1年次研修の6日間もあっという間に過ぎ、第2年次の研修に向けての決意を胸に研修生たちは工房を後にしました。

  • 2015年6月29日(月)1日目

    久しぶりの再会に、お互いの近況報告などの会話で和やに2年次の研修が始まりました。講師より作業説明があり、窯焚きが主となる第2年次の研修に、皆一様に引き締まった表情となりました。
    備前焼では、窯焚きの日数が約10日から2週間と長く、研修の初日には講師の穴窯の窯焚きは6日目でした。これから窯焚きの重要部分である後半を受講生の皆さんにと共に焚いていきます。

    窯詰め作業

  • 2015年6月30日(火)2日目

    前日より、二人一組で窯焚き作業に入りました。交代シフトを組んで割り当てられた時間内は、温度計を参考にしながら、温度上昇とともに変化していく窯内部の状況を確認して、指示通りに薪を投入していきます。
    シフト以外の時間は、講師・助手のアドバイスを受けながら、各自轆轤練習や道具を製作。

  • 2015年7月1日(水)3日目

    窯焚きシフトの合間をぬって、今事業の助手でもある隠﨑隆一先生のほか、川端文男先生、細工物と言われる陶彫を手掛ける島村光先生など、現在の備前焼で独自の仕事を展開されておられる作家の方々の工房を訪ねて、現代備前の新たな技法などを解説して頂く。

  • 2015年7月2日(木)4日目

    窯の温度は既に1000度を超えています。長さ12メートルの穴窯に流れ込む空気の音も勢いを増し、受講生は顔を焼かれそうなほど吹き返す熱風を浴びながら、各自与えられた窯焚き作業をこなしていきました。

  • 2015年7月3日(金)5日目

    前日から同じ温度帯を保っていますが、窯内部の様子は刻々と変化していきます。1000度以上の高温時に薪を大量に消費することにより、ゴマと呼ばれる自然秞を得られます。
    受講生は担当時間になると窯場へ向かい、窯の様子を確認して決められた本数の松割木を約15分毎に穴窯へと投入します。1000度を超えた窯内部の様子をうかがう受講生の顔を照らす炎の勢いがさらに増してきました。

    窯焚き作業(前焚き)

  • 2015年7月4日(土)6日目

    10日間続いた窯焚きも最終日となり、早朝6時より前焚きを終える作業を1時間ほど見学。その後、正面の焚き口を締めて窯の左右にある焚き口から横焚きへ。これから徐々に後方の焚き口へと順に移りながらの窯焚き作業になります。左右2か所ずつの焚き口から細く割った松割木を投入する作業を受講生たちも左右に分かれて交代で行いました。この作業は翌日の明け方近くまで続き、そして12日間の窯焚きが終わることになります。
    窯場にて講師から挨拶があり第2年次の研修も終わりましたが、穴窯の焼成は続きます。受講生たちは時間の許すかぎり熱気の籠もった窯の側で、刻々と変わっていく窯の中の様子を見ながら焼き上がる作品に想いをはせ、松割木を窯の中へと投げ入れていきます。
    その真剣な眼差しを見て、この受講生たちが、次代の日本の工芸を支える作家のひとりとなるであろうと確信しました。

    窯焚き作業(横焚き)

  • 備前焼は六古窯に数えられる日本に古くから根付く歴史ある焼き物です。
    研修初日、メンバ−8名の大人数で伊勢﨑淳先生の工房に押しかけてしまいましたが、先生は快く受け入れてくださいました。
    一年目の研修は土作りから、ろくろ成形までを体験します。備前焼には土を製造販売してくれる業者はなく作家さんたちは自ら土を探して掘り出し精製して土にしなければならないと聞き驚きました。早速、私達も土作りをさせていただきましたが、とても大変な作業でした。1センチにも満たない乾いた土の塊をハンマーで砕き磨り潰して篩にかけることを繰り返しました。この体験は土の大切さを再認識させてくれる貴重なものになりました。
    次にろくろ成形を体験させて頂きました。まず驚いたのが成形時に使うろくろの板に乾いた土の粉末を引いた上に土の塊を据えて成形するというものでした。削りの段階になってその土の粉を落とすと、とても格好の良い肌あいになりました。ろくろの挽き方自体もコテは一切使わず、なめし皮を両手に持ち成形するというもので自然なろくろ目が出ました。また、成形しながら揺らしてみたり、成形後手やヘラで押したり柔らかいうちに様々な表情をつけていく技法を学びました。私の技法からするととても対照的で大変勉強になりました。
    二年目は2名ずつ4班に別れて穴窯を焚く体験をさせていただきました。本格的な穴窯を焚いた経験はなく貴重な体験になりました。最も印象が深かったのが窯から発せられる音でした。かなり大きな音でガスバーナーみたいな音でした。これは穴窯特有の急な傾斜から生まれる急激な空気と火の流れによるものでした。薪を焚べるときの熱さも尋常ではありませんでした。
    土作りから焼成まで備前の陶芸に触れることができてその大変さや良い焼き物が生まれる理由などがわかったような気がしました。
    伊勢﨑淳先生をはじめ隱崎隆一先生、伊勢﨑創先生、近藤真彦先生には土作り、ろくろ成形、窯焚き等に付きっきりでご指導いただきました。
    参加者全員初めて体験することも多く悪戦苦闘の連続でしたがなんとか作品を焼くところまで漕ぎ着けました。
    伊勢﨑淳先生からは、人間性を磨かないと良い作品が作れない事や、作陶への姿勢など貴重なお話をいただいた事が私達の貴重な体験の一つになりました。また、先生が造られた石彫作品を見せていただき、そのスケールの大きさに圧倒されました。
    厳しさや楽しさの中に学ぶ事の多いとても貴重な研修になりました。
    伊勢﨑先生、ご家族の皆様、隱崎先生、備前の先生方、そして工芸会関係各位の皆様には大変お世話になりました。このような機会を与えて頂いたことと共に心より感謝申し上げます。