「鋳金」伝承者養成技術研修会(2003 - 2004 年)

齋藤明先生による重要無形文化財
「鋳金」の研修会

活動報告

  • 2003年9月16日(火)1日目

    初年度は回転体による蠟原型の制作、鋳型制作、鋳型の焼成、鋳込み、中子落としまで。第2年次は仕上げ加工、表面処理、着色、完成までの全工程を研修することになった。
    作品の制作工程に関する概要の説明を受け早速実習に入った。研修指導の方法は基本的に、まず、工程ごとに齋藤講師が実際に制作実演し、次に研修生が実習を行っていく方法をとった。各自、原図面をもとに挽き型板を制作し、鳥目箱に取り付け、次に芯棒になる丸棒を固定してこれに荒縄を巻きつけ1日目の工程を終了した。

    原図面

  • 2003年9月17日(水)2日目

    研修生各自縄繰りが完成。その上に中土をつけ始める。その後、炭火で乾燥させ順次挽きまわし再度乾燥させ、モロメ土を付け再び乾燥、さらに細かい珪砂入りの紙土付けを行って挽き揚げる。

  • 2003年9月18日(木)3日目

    完全に乾燥した中型表面をさらに硬化させるため、ラックニスを塗布していく。はじめは薄めのものから徐々に濃いものにかけて3回から4回塗り重ねる。研修生各自も実習に入る。続いて次の工程であるパラピン蠟の溶解準備にかかり、いよいよ蠟挽きの開始である。この蠟挽きの作業は最も重要な工程の内の1つである。講師によりその注意事項の説明があり模範は示され、その後各自がパラピン蠟を溶解、蠟挽きに取り掛かり、蠟原型の素地部分を完成させた。次に、この原型に波型をした文様部を蜜蠟によってレリーフ表現を行った。

    中子の完成 引きの開始

    蠟挽きの指導

  • 2003年9月19日(金)4日目

    原型文様部の制作を継続し完成させた。型持の設定、幅置部の整理をおこない、肌土・紙土付けを順次行い焼真土(やきまね)で水分をすわせ硬化させた後、中土付けを行う。再度全体を硬化させ、針金を網状に巻きつけ補強し外側にも荒土を付け重ねていく。さらに全体を乾燥させるため真土砂を全体にかける。

    鋳型制作の指導

  • 2003年9月20日(土)5日目

    硬化した鋳型から芯棒を抜き取り、巻きつけてあった荒縄も順次取り出して中子内部を中空にした後、芯棒の穴をうめ、底部全体の修正を完了する。鋳型全体の凸凹を修正、湯道用の蠟を準備して湯道及び堰付けの実演の後、全員実習に移った。さらにこの湯道部分にも鋳型土を付け、全体に荒土を付け重ねて湯口と掛け堰部分を整え鋳型の完成である。24日は鋳型焼成窯の構築と脱蠟を行うため研修会の有志とお手伝いの方々が集まり作業が進められた。完成した焼成窯に炭火を入れ夕刻より徐々に加熱し、午後9時脱蠟を終わる。

    鋳型の制作

  • 2003年9月26日(金)6日目

    いよいよ鋳込みの日である。齋藤講師とお手伝いの方によって午前1時より鋳型の焼成が開始された。午前7時45分焼成が終了、焼成時間6時間45分。8時30分溶解の開始。吹き分け用に唐金20キロに金16グラムを添付、黄銅20キロが用意され溶解炉2箇所で同時に溶解された。鋳型焼成窯を解体し、吹き分け8点分を窯の外に出す。12時15分吹き分けの鋳込みが終了。続いて朱銅2点分として唐金60%に純銅40%の合金を溶解。研修生各自の鋳型への鋳込みを体験し無事作業を終了した。鋳込み後鋳型の冷却を待ち割り出しを始める。全員成功である。

    合金の溶解

    鋳込み

  • 2003年9月27日(土)7日目

    全員で片付けの後、仕上げの手順について説明があり、湯道の切り落としと中子落としに取り掛かった。研修生各自感想を述べ、作業工程に関する質疑応答の後今年度の研修を終了した。

    鋳込み後の講評風景

  • 2004年8月30日(月)1日目

    各自、荒仕上げを行った作品を持ち寄る。5日間の日程の説明の後、全作品の講評と切下げ掛けの実演があり仕上げの工程に入る。

  • 2004年8月31日(火)2日目

    切下げ掛け研磨、ペーパー研磨を継続。笄部分の穴、ゴミ巣の部分に各自嵌金(はめがね)を行う。特に吹き分け作品の嵌金は早付け液を付けながら慎重に判断していった。

  • 2004年9月1日(水)3日目

    全作品のうち唐金で鋳造した作品2点の朱銅焼きを始め午前中に終了、並行して吹き分けの作品についてさらに細かく研磨するため、胴摺り、炭研ぎを念入りに行う。朱銅の作品については砂銅摺りの後、荒縄を用いて十分に磨き上げた。

    仕上げ研磨の完成

  • 2004年9月2日(木)4日目

    煮上げ着色の作業に入る。午前中は煮色液である緑青と硫酸銅を配合した溶液を作り色揚げ工程に必要なさまざまな容器、用具、用材を作業の手順に沿って手際よく配置していく。まず、吹き分け3点分の色揚げから同時に開始する。夕刻までに吹き分け作品分6点及び朱銅作品2点の下色付けを全て完了した。

    煮上げ着色の様子

  • 2004年9月3日(金)5日目

    色揚げ作業を継続。朱銅の鉄漿(おはぐろ)焼付け作業に取り掛かる。炭火により回数を重ね繰り返し鉄漿を焼き付けていく。最終段階としての色止め作業としてザボンエナメルと酢酸アミルの溶液を掛け流し、すべての工程を終了。全員で後片付けの後全体の講評があり、2年間、延べ12日間にわたる研修に対して感謝の意と今後の抱負を述べて終了とした。

    完成作品

  • 齋藤明先生による「鋳金」伝承者養成研修会が平成15年に7日間、16年に5日間行われ、各地より8名が参加しました。
    初日緊張しながら訪れた先生の工房は、住宅街の一角にありながら、一歩中に入ると、外界から遮断されたような神聖な空気に満ちていました。赤橙色に焼けた真土、きれいに掃き清められた土間、周囲の棚には使いこまれた道具が整然と並べられ、その場にいるだけで気持ちが引き締まる思いでした。その神聖な雰囲気のおかげで、我々8人はまるで今日初めて鋳金を習うような無垢な気持ちで、研修に臨むことが出来たように思います。
    前期の7日間で鋳造を終了し、後期の5日間で仕上げるという日程は、すべての工程が200をこえる鋳金では、不可能に等しい事でしたが、齋藤先生の創意工夫、助手の戸津圭之介、本間琢治両先生のご指導のおかげで、全員が作品を形にすることが出来ました。
    齋藤先生は常に我々一人一人の作業に目を配っておられ、少しでも迷えば、先生の適確なアドバイスを頂けました。先生の経験に裏付けられたその冴えた技術を、目の前で見せて頂ける至福の時間を、我々は共有したのです。
    今、研修のすべてを振り返り、我々が先生から学んだ事は何か、を考える時、それはやはり先生の仕事に対する姿勢であっと思います。1つの作品を生み出す工程に、甘えやごまかしの入る隙間はない。先生のお仕事を拝見し、私は強くそう思いました。その姿勢の中から、あの美しい吹き分けや、朧銀、朱銅の作品が生まれてくるのです。
    この研修で得たもう1つの宝は、一緒に参加できた仲間との絆です。これまでも部会の中でのつながりはありましたが、この研修で文字通り同じ釜の飯をたべることで、お互いの考えや、置かれている境遇を知り、深く理解しあえたと思います。このことは、今後のお互いの制作にとっても、また金工部会全体にとっても良いことになったと確信しています。
    このような至福の時間を与えていただけたことに、改めて感謝申し上げます。また、参加者一同が今後の作品制作に必ず生かしていくことを誓いたいと思います。