「友禅」伝承者養成技術研修会(2019 - 2020 年)

森口邦彦先生による重要無形文化財
「友禅」の研修会

活動報告

  • 2019年4月13日(土)1日目

    伝承者養成研修会の開講に先立ち、京都芸術センターにて森口先生より今回の事業について、先生のお考えや1年次として2日目に行われる公開講演会「友禅初期のダイナミズム」(講師・切畑健先生)を基調講演として、京都国立博物館、千總文化研究所、京都国立近代美術館、そして森口先生のご自宅で森口華弘先生、森口邦彦先生の作品など、観て、感じて、刺激を受けて欲しいとの説明があった。
    開講の冒頭、森口先生より、先生が日本伝統工芸展に出品するにあたり大切にしてきた文章の紹介があった。
    桑原武夫(※1)(アサヒグラフ京都に関する伝統の小文より)【......輝かしい伝統を持つことは京都人の誇りである。しかし伝統と言うことが神社仏閣の古建築に係わるものでなく、芸術、学問といった現に生きている精神にかかわるものとすれば、すぐれた伝統を持つことはむしろつらいことである。先人の業績は正しく受け継がれているだろうか。さらにそれを乗り越えて新しいものを作るのでなければ独創的とはいえないが、それが出来ているかどうか。反省のないところでは真の伝統は死ぬ。......独創性の誕生の秘密は容易に解らないが、自由のなかの厳しい努力によってしか生まれてこないことは確実である。それは従来普遍の思想への反抗なのであって円満具足の世界に花咲くものではない。自由な冒険を尊重する社会でなければならない。】
    (※1)桑原武夫:フランス文学者、評論家
    今回、小作品を制作して展示するという従来の養成事業の形は取らず、受講生が観て感じたものを展覧会の作品として成果を出して欲しいとのお話があった。1年次は観て、感じて、2年次は草稿を制作、友禅の最も重要なデザインの推敲を中心にした養成事業となる。そのため今回の受講者は、友禅7名、刺繡1名、紅型1名、絞り1名の10名になった。
    出席者の皆さんが日頃どのような仕事をしているのか等を理解するために受講生が持参した作品を展示し、作品のプレゼンテーション、自身の紹介などを行う。それぞれの作品について先生より指導があり、ディスカッションが行われた。

    京都芸術センターでの研修

  • 2019年4月14日(日)2日目

    13:00 公開講演会「友禅初期のダイナミズム」講師:切畑健氏
    京都芸術センターの講堂にて、森口先生のコーディネートで、切畑健先生の講演会を一般の参加も可能な公開講演会として行われた。参加者104名。《友禅染・日本美の素晴らしさ「友禅ひいながた」(貞享五年・元禄元年1688)にみる革新性》と題してスライドや資料を使い行われた。

    公開講演会

  • 2019年4月15日(月)3日目

    10:00 京都国立博物館にて初期友禅の実作特別拝観(学芸員山川曉先生、切畑健先生)
    前日の切畑健先生の講演会に引き続き、切畑先生と京都国立博物館の山川曉先生のご指導、解説で、初期友禅の実作特別拝観が行われた。6点の着物等を間近で見せていただく貴重な機会であった。

    京都国立博物館での特別拝観

  • 2019年4月16日(火)4日目

    10:00 千總文化研究所にて所長の加藤結理子先生の解説で明治以降の型友禅の資料を見せていただく、千總(株)の西村家より寄贈された、千總13代夫人の打掛、14代夫人の振袖など、当時の技術の粋を集めた豪華な衣裳を堪能、また千總本来の型友禅の資料を見せていただき手描き友禅とはまた違った衣裳等を鑑賞した。
    15:00 京都国立近代美術館に移動し、副館長の松原龍一先生の解説で、ビロード友禅(*2)や刺繍の作品を見せていただく。その驚くべき技術力に見入ってしまう作品であった。
    (*2)ビロード地に友禅染を施し、第二次世界大戦前に一時的に生産し、主として壁掛けなど装飾品に用い、海外に輸出された。

  • 2019年4月17日(水)5日目

    森口先生のご自宅にて森口華弘先生の記録映画を鑑賞、その後華弘先生の作品を二十数点先生に解説を頂きながら鑑賞する。

    森口先生ご自宅での研修

  • 2019年4月18日(木)6日目

    最終日、森口邦彦先生の作品を見せていただく。実作と草稿を同時に観て先生の創作のプロセスを詳細に教えていただく。仕事場も見せていただき、観ることに徹した研修会となった。

  • 2020年11月7日(土)1日目

    1年次は徹底して観ることで刺激を受け、2年次は草稿を書くことに専念し成果として作品を制作することが目標となる。
    都芸術センターにて各自が持参した作品や縮図などの資料を基にして全体でプレゼンテーション、森口先生より指導を受ける。その後、個別に縮図の推敲を重ねる。
    16:30 京都国立近代美術館に移動し「人間国宝森口邦彦友禅/デザイン─交差する自由へのまなざし」展を森口先生の解説を受けながら鑑賞する。長時間にわたる先生の解説をお聞きし感動、終了する頃には受講生だけではなく一般の入場者も周りを囲み大人数になっていた。

    受講者のプレゼンテーション

  • 2020年11月8日(日)2日目

    13:00 公開講演会「初期友禅の歴史とその魅力」 京都芸術センターにて切畑健先生の司会で開催。
    1講師 河上繁樹先生(関西学院大学文学部教授) 「友禅前夜─江戸時代前期(17世紀)の染色事情」
    2講師 高木香奈子先生(関西学院大学博物館) 「友禅染の暁─17世紀末期の染色資料から見えること」
    参加者は51名、コロナ禍にもかかわらず大勢の受講者が参加し開催された。

  • 2020年11月9日(月)3日目

    10:00 京都芸術センターにて助手の芦田崇先生により、蒔糊の製法と使用法の実践、三度黒染を体験。
    今回の伝承者養成研修会の中では唯一の技術の研修となった。最初に蒔糊の作り方を見せていただき、一部体験もした。その後各自白生地に蒔糊を撒く実習。
    午後はすでに用意されていた、蒔糊を撒いて地入れもすんだ試し生地で三度黒染を体験。貴重な経験となった。染まった生地は乾燥後各自で持ち帰り、自宅にて水洗をして完成させる事になる。

    蒔糊・三度黒染の体験実習

  • 2020年11月10日(火)4日目

    京都芸術センターにて、先生の指導の下、草稿作りの作業をする。

    草稿作り

  • 2020年11月11日(水)5日目

    10:00 京都国立近代美術館にて森口邦彦展の展示入れ替え後の作品を鑑賞。
    13:00 京都芸術センターにて草稿作り等。

    京都国立近代美術館にて展覧会の解説をうける

  • 2020年11月12日(木)6日目

    伝承者養成研修会の最終日、1年次は観ることに徹し、2年次は書くことに専念した。日々の仕事のなかで草稿を書くことはあるが、これほど集中して書くことは少ないと思う。友禅はデザインだと思う、改めて桑原武夫先生の言葉、......先人の業績は正しく受け継がれているだろうか。さらにそれを乗り越えて新しいものを作るのでなければ独創的とはいえないが、それが出来ているかどうか。反省のないところでは真の伝統は死ぬ。......今回の成果が作品として結実する事を望みたい。

    閉講にあたってのお話

  • 令和元年より2年間、森口邦彦先生による「友禅」の研修に参加させて頂きました。この度の研修は終始一貫「友禅とは何か」を私達に問いかけるものでした。
    初年度は京都芸術センターにて予備トレーニングの後、切畑健先生による公開講演から始まり、京都国立博物館内にて解説を頂きながら初期友禅の実物、貴重な資料の数々を観覧、千總文化研究所でも充実した資料を見せて頂くなど、それぞれの時代の制作者の息遣い、雰囲気、想いをこの目に見ることが出来ました。
    さらに森口邦彦先生のご自宅では中川華頓先生、森口華弘先生、森口邦彦先生の映像、実作観覧、願ったところで決して叶わぬ様な濃密な経験でした。
    眩暈を覚えるほどの膨大な情報量、徹底的に詰め込まれるアカデミックな学識の悦びに充実した日々を過ごし第一年次を終了、日常に戻り、受けた知識の消化に努めました。
    学校を出て久しい私が、まさか再びこのような学びの機会を頂けた事に感謝感動したのを覚えています。
    第二年次もやはり学びから始まりました。
    京都国立近代美術館で「人間国宝森口邦彦友禅/デザイン―交差する自由へのまなざし」を見学、邦彦先生自らによる作品解説で制作意図、構想から完成までの推敲過程を、緻密で明晰なデザイン的思考の持ち方を、惜しみなくご教授下さいました。
    2日目の学術講演、河上繁樹先生「友禅前夜ー江戸前期(17世紀)の染織事情ー」、髙木香奈子先生「初期友禅の暁」お二方の講義に目からうろこの感激を覚えつつ、友禅というものがどの様にして求められ、生まれ、生活に文化に生きて来たのかを理解し、やはり私は「友禅とは何か」を強く意識せずには居られないのでした。
    3日目は邦彦先生の助手の芦田崇氏のご指導の下、蒔き糊の製法と使用法の実践を行いました。
    蒔き糊にあこがれていた私はこれを非常に楽しみにしておりました。しかし実際にやってみると想像をはるかに超えて難しく、操縦し難い糊の挙動に四苦八苦、完成に至るまでの煩瑣な手間に舌を巻きました。あの美しく整然とした梨地の画面がこのような高度な技によって作られていたのだと今更ながらに感得し、蒔き糊という技術の可能性と限定性を思い知ったのでした。
    そしてようやく私はこの研修における森口邦彦先生の意図を正確に理解するのです。「友禅」とはつまり「デザイン」なのだと、技法はあくまでもその表現手段に過ぎないのだと。
    「友禅」の研修でありながら「刺繍」「型染め」「絞り」と多分野から研修生が集められたのもそう云う意図が有ってのものなのだと。
    4日目からは各自草稿づくりです。
    それぞれの分野の草稿をそれぞれの組み立て方で、新たに固められた視座から思い思いに作業します。他の方の制作過程を見る機会はそう無いため、とても興味深く、それにしてもこれ程までに皆描き方が違うものか、と改めて感慨せずにはいられませんでした。
    構想がまとまった段階で邦彦先生にご講評頂くのですが、先生の広大な見識と深遠なキャパシティゆえお話が非常に分かりやすく、しかも私の見地に立って助言を下さるのです。お話をする度にイメージが鮮明化し、発展する、視界の靄が晴れるのを覚えます。
    聞こえてくる他の方々へのアドバイスも大変参考になりました。何しろ参加者10人全員が全く違う世界観、表現構成であるにも関わらず、其々の分野の視点観点に立っての的確な提案や助言に皆私と同様の感動を得ているに違いありませんでした。静謐な空間に流れる充実した時間、一心不乱に制作を進めるのが嬉しく、言葉にならない興奮がありました。そしてふと、彫刻家ジャコメッティの言葉を思い出しました。
    「自分の考えや表現方法を選ぶことは出来ない灯に集まる蟲のようにただ熱中するのだ」
    研修会を閉会されるにあたり、森口邦彦先生をはじめ指導助手の髙𣘺寬先生、芦田崇氏、小倉淳史先生、学識者の諸先生方、京都国立博物館、京都国立近代美術館、千總文化研究所、京都芸術センター関係者の皆様、文化庁様及び日本工芸会、今回の研修会の関係者の皆様に心より御礼申し上げます。