「挽物(ひきもの)」伝承者養成技術研修会(1997 - 1998 年)

川北良造先生による重要無形文化財
「挽物(ひきもの)」の研修会

活動報告

  • 1997年10月4日(日)1日目

    轆轤技術研修所に於いて開講式が行われ、研修会の進行計画及び内容が示された。
    木工芸の基本である挽物材と指物材の木取りの違い、使い方の違い、縦挽き・横挽きの基本的な挽き方の違いと使う道具類の違い、縦木材と横木材ではどんな木が作品として適しているか、又何故その木が適さないか等の講義をしていただく。受講生の大半が縦木挽きに関しては初めて聞く事ばかりで大好評であった。

  • 1997年10月5日(月)2日目

    会場を川北工房に移し、道具作りの実習から始まる。縦挽鉋、横挽鉋を大作業場で先生自ら作って見せて下さる。受講生の多くが縦木材の挽物経験はほとんどなく熱心に見学。挽物の道具には既製品は一切ないため全部自分で作らなくてはならないのが大変である。
    小刀や「シャカ」(鉋の一種)等、色々な道具を見せていただく。縦木挽きと横木挽きの道具の微妙な違いに驚く事ばかりである。鉋等の「研ぎつけ」をし1日を終える。

  • 1997年10月6日(火)3日目

    轆轤の前での実習に入る。昨日作った鉋で素地を挽き上げて行く作業、ここでも縦挽き、横挽きの違い、刃物の使い方の違いを実習する。横木材は盛器、縦木材は甲盛の美しい食籠が出来上がる。受講生も順次実習する。

    講師による実技

    制作指導

  • 1997年10月7日(水)4日目

    工房にて先生より講義を受ける。甲盛の定義と姿、作品別の見附の美しさの定義、蓋物ヤロ、フトコロ、タチアガリの定義、高台のつりあい、畳摺りなど詳細な内容であった。
    午後、「奥山中」へ樹勢観察に行く。「栢野大杉」「欅の大木」「県民の森の漆の大木」等。その後ビデオにより「木の生命よみがえる 川北良造の木工芸」を鑑賞する。第2年度に向けて1人1点以上の作品制作が宿題として出された。

    研修生 漆の大木を前に

  • 1997年10月8日(木)5日目

    初年度最後の日、場所を轆轤技術研究所に移す。先生の講義、その後質疑応答、5日間はあっという間に終る。講義の中の「工人は木と対話が出来る様にならなければいけない。木が何を語りかけているのか、何をどうしてほしいのかを感ずる様にならなければいけない。」と言う先生の言葉の重さをひしひしと感ずる5日間であった。最後に先生より学んだ素地作りの全てを来年度への課題として作品作りに体当たりでぶつかってほしいと要望された。

  • 1998年10月4日(日)1日目

    川北工房にて開講式、講師の挨拶に続き今年度の実習課程の説明があり、宿題作品の提出が求められる。作品は盛器、丸盆、干菓子器、食籠で木の種類は欅・神代欅・桑・肥松・黒柿等多種多様である。一人一人の作品全部を手に取られ、懇切丁寧に指導していただく。
    次に今年から始まる拭漆の漆刷毛の用意をする。囲み板を大工鉋で削り、そこに糊漆で布を張る。こうしておけば明日の朝までに漆も乾き使用できるとの配慮、〈道具は使いやすく、大切にする〉先生の姿勢を学ぶ。

    糊漆を作る

    山中産荒味漆の布漉し

  • 1998年10月5日(月)2日目

    昨日塗り固めた刷毛の漆も乾き、刷毛のニカワ取り、毛の部分を湯に浸し、金槌で軽く毛が柔らかくなる迄たたき、これを根気よく繰り返す。刷毛をよく水洗いして水分をとり、やっと使用可能となる。
    次に講師がかねてより一人一人に用意して下さった練り板に「拭漆をするように。」との指示があり初めて拭漆に取り掛かる。その後、宿題の作品に第1回目の拭漆をする。午後は肥松作品の拭漆である。受講生は「未だかつて肥松で拭漆をした作品を見た事がない。これだけは是非、勉強して自分のものにして帰りたい。」という。
    講師は用意してある揮発油に耐水ペーパーを浸し、その揮発油とペーパーで作品を磨き始める。肥松は樹脂が大変多く、木地挽きの時点での磨きは出来ない為である。こうした磨きを繰り返しながら拭漆をして行く、大変根気のいる作業である。また、通常の拭漆でも、木地固めを行った後、あて物をしたペーパーで轆轤を使わず、手で根気強く磨くことが大切である、との指摘がなされた。

    拭漆実習

    講師による実技

    刷毛の囲み板作り

  • 1998年10月6日(火)3日目

    午前は昨日の講義と実習に基づき拭漆を行う。又、肥松作品の拭漆に皆真剣に取り組む。
    次は水研ぎの実習である。水研ぎは水で研ぐ時間を出来るだけ短くして、ドライヤーで乾かしながら手早く行わないと、杢ヤセを助長する恐れがある、との指摘がなされた。
    午後は桑の渋出しの講義と実習となる。
    まず生石灰に水を入れ、そこへ木炭を少々混合する、その混合液を桑の作品に塗り乾かす。これを2回から3回繰り返す。その後よく乾かした作品をから磨きして、砥の粉の入った木蠟で艶上げしながら仕上げて行く講義と実習であった。

    空研ぎ

  • 1998年10月7日(水)4日目

    今日も拭漆から始まる。まったく根気のいる仕事である。又、神代欅や桑材等その木材独特の拭漆の技法を学ぶ。材料の「フシ、キズの埋木」の講習もお願いする。独自の道具と技術により、見事な修復となり、これも先生の手にかかると見事な作品になってしまう。

  • 1998年10月8日(木)5日目

    いよいよ川北工房での研修最後の拭漆を皆で行う。相当艶の出た作品もあり楽しそうである。拭漆をしながら質疑応答が行われた。最後に反省会があり、受講生から川北先生に対しそれぞれ感謝の言葉が述べられ2カ年にわたる研修会を終えた。
    以下に講師より受講生一人一人に提供して下さった道具を記録する。
    ・ハイス16ミリカンナ棒 1本
    ・六分小刀 1本
    ・良質砥の粉 100グラム
    ・欅練り板 1枚
    ・漆チューブ入り 100グラム
    ・漆刷毛寸 三分一通し 1本
    ・エゴマ油 350グラム
    ・練りベラ 1本

  • 私はこの度2ヶ年計画の重要無形文化財保持者の川北良造先生の木工芸挽物の伝承者養成研修会を受講する事が出来ましたことを大変感謝しております。
    山中の伝統工芸の挽物は400年もの長い間、今もなお高度な技術と人情豊かな人たちで日本を代表とする挽物の町として、その豊かな技術が伝承されているのがひしひしと肌で感じとる事ができました。研修会は県立ろくろ技術研修所で開校式があり、川北先生、助手の水上、辻の両先生と、全国から集まった受講生12名が初めて顔を合せて研修会がスタートしました。
    1年目の研修は木地作りの講義と実技が中心で、作品造りで1番大切な木取り、木の使い方、材料の用途、造形の調和など木工芸の基本について話をしていただきました。実技の研修は川北先生の工房で行なわれ、まずはじめに縦挽用、横挽用などのカンナ造りにはじまり次にロクロ挽の実技の作業が行なわれ、荒挽から面取り、甲盛りなどの基本の形造りに熱中し1年目の研修は終わりました。
    2年目の研修は川北先生の工房ではじまり前年からの宿題となっておりました木地作品について畳ずれ、高台の大きさ、面の広さや形などについて批評していただき作品造りによい参考になりました。今回の研修では、拭漆の方法や肥松の拭漆、桑の渋出しや神代欅など木味を生かした拭漆など数多くの技法をおしげもなく私たちに実技をまじえてわかりやすく伝承していただきました。2ヶ年計画の研修も時のたつのは速く、研修仲間たちともわかれる時が近づき、今回の研修で学んだ技法を生かして良い作品造りにがんばろうと、それぞれの工房に戻ってゆきました。
    最後に2ヶ年間にわたり私達研修生のために工房を開放して下さった川北先生はもとより助手をしていただいた水上、辻の両先生におかれましては私たちのためにいろいろとお気づかい下さり、よりよい研修が出来ました事を心中よりお礼申し上げます。