活動報告
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2022年10月3日(月)1日目
まず講師の二塚先生からご挨拶があり、研修会の目的として、
・糯糊による制作を通してゴム糊との違いを感じ取る
・先人の仕事から学び、昔からのものにも触れて理解し取り入れることで、今後の作品に展開していく
・つくる人の精神を汲み取り、自分のものづくり精神を養う
・次代に残してほしい
と述べられた。
続いて研修生の自己紹介を兼ねた作品プレゼンテーションが行われた。持参した友禅染の着物作品を衣桁に掛け、それぞれの仕事に対する考えやデザインの意匠を発表し、それに対して先生からは友禅のデザインの重要性と、ご自身の経験談から「日頃のスケッチの習慣と観察することにより、求めるものは向こうから来てくれる」といったお話があった。
その後、1年次の実習内容の「糯糊で九寸幅(約34cm)の生地に長さ100cmで108本の線を引く作業を行う」についての説明があった。まずそのための下図作りに取りかかる。
113.4×34.2cmの模造紙に1.8cmの間隔で17本の線を鉛筆で書き入れた。持参した着物と雛形図案によるデザイン研究会
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2022年10月4日(火)2日目
使用する生地は紬の帯地を120cmに切ったものを使用した。下図の上に布を置き、青花液を含ませた筆で線を写し取る。定規を添えて17本の直線を引いた。その後長さ113.4cmの張り台に生地を巻き取りながら張る。
11時、石川県立美術館の寺川和子氏の講義「友禅 日本の模様染」を聴講。友禅の成り立ちと模様染の変遷について学んだ。
午後は寺川氏の解説による石川県立美術館所蔵作品の熟覧が行われた。南蛮船が描かれた暖簾と鳳凰・虎・麒麟が大胆にデザインされた羽織は江戸時代のもので、加賀友禅の原点という。木村雨山作の2点は、推考が重ねられたデザインと色彩の妙について、またどんな技法が使われているのか談義が続いた。そして二塚先生の着物「雨あし」の作品を前に、先生ご本人から制作のエピソードをお聞きした。布面に下図を写し取る作業
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2022年10月5日(水)3日目
いよいよ糊を扱う作業に取り掛かる。まずは先金の口作り作業。先金の先を削って穴をあけ、針先や紙やすりで穴の大きさを確認し、柿渋紙を円錐形に丸めた糊筒の内側に中金を入れ、外側に先金を取り付ける。先生は「デザインだけでなく、道具にも創意工夫が必要」とお話しされながら、事前に作られた糊(主原料は糯粉・糠粉)の軟らかさを調整し、5人分の器に分配された。糯糊の硬さや粘りの加減、筒からの絞り出し方についての説明があり、実際の糸目糊置き作業が始まった。「糊は引くのではなく、置くこと」を念頭に、100cmの長さで108本の線を置くため1.8cmの幅に5本の線を糊置きするのだが、結構な忍耐と集中力を要する。研修生からは「普段使っているゴム糊と扱う感覚が違う」「硬さの調整が難しい」「手の温度で筒が乾いてくる」など苦戦の様子が見られ、期間中に終えられるか心配の声も聞かれた。
糯糊の調整
糸目糊置きの実習制作
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2022年10月6日(木)4日目
先生が前日の器に残った糊に新しい糯糊を足して温め練り、硬さを調整されることからスタートする。前日終了時には乾燥しないように器にラップを掛けて水の入った洗面器に浸しておいた。静まった室内でひたすら線を引く作業が続く。机上の作業なので、高さ調節の為に座布団等を使いながら各々が良い体勢になるように調整をしていた。前日より調子が上がり、糊の盛り上がりの高さ・厚みに意識がいくようになり、糊の面白みを感じてきたようだ。
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2022年10月7日(金)5日目
この日もまず先生がそれぞれの器の糊の状態をチェックされ、ひたすら糊を置く作業が続く。紬地の凹凸に先が引っかかり、線が途切れている箇所に部分直しをして仕上げに向かう。終了時には全員ほぼ糊置きが終わった。
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2022年10月8日(土)6日目
糊置きされた布面の確認後、石川県立美術館「加賀宝生のすべて 能面と能装束」鑑賞。
午後より研修生実習作の総評が行われた。布地を持ち帰っての作業の説明(地入れ・地染め・水元)と、次年度には帯用に糊置きをするため図案作成をするよう告げられた。
先生の帯作品や木村雨山作の掛軸を熟覧し、1年目を終えた。1年次に制作した裂地の講評
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2023年8月21日(月)1日目
前年より早い時期に設定され、猛暑の中の研修となった。1年次で体験した糸目糊置きを元に、今回は帯に自分のデザインしたものを展開する。
まず前年糊置きされた裂地に地入れ・地染め・水元・ゆのしをしたものについて、先生からの講評があり、選択した色や地入れの方法について指導された。続いて宿題であった帯図案にアドバイスをされ、手直しをした研修生から下絵写し作業の準備に取り掛かった。下絵写しは筆先に少量の青花をつけて描く。青花ペンを使用する研修生もいた。持参した帯図案によるデザイン研究会
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2023年8月22日(火)2日目
下絵写しを終えた人から張り台に布を取り付ける。まずは帯の前側部分から始める。
前年と同様に先生が事前に作られた糯糊の硬さを調整する。器ごと湯に浸けて温め、少量の湯を竹ベラで加えて混ぜながら、「手間と時間をかけるのは日本画の岩絵具を溶きながら考える時間と同じである」「なんでも使い切らないで少し残し新しいのを継ぎ足していくと調子が変わらない」と静かに淡々とお話しされる。柄の位置の説明、糊置きするときの注意点、先金の取り扱いの指導もあった。糸目糊置きの指導
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2023年8月23日(水)3日目
先生の糯糊の調整から始まる。
帯の前側が終わった人から張り台の布地の位置を変え、お太鼓側部分の糊置きに進む。糊置きされた前側は内側になるよう巻き取る。 -
2023年8月24日(木)4日目
糊置きの作業が続く。研修生から「1年次の修業のような線とは違い、自分のデザインに展開するので線が生きてきた」といった声が聞かれた。
糸目糊置きの実習制作
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2023年8月25日(金)5日目
帯の糊置きの作業を終了し、今後に自宅で染めるための試し用の小布にも同様に糊置きした。その後、先生の制作の様子を映した記録DVDを鑑賞した。
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2023年8月26日(土)6日目
5名の作品を並べ総評が行われた。先生は「糯糊での体験を今後の制作に活かしてほしい」と述べられ、糊置きした帯地は持ち帰って地染めをすることになるので、地色についてのやりとりも行われた。その後、先生の作品2点を熟覧。「大胆にするほど細かいところが大事になる」。先生の語りを研修生は深く受け止めていたようだった。持ち帰ってからの続きの作業の説明があり、金沢での研修を無事に終えた。
後日、研修生それぞれの工房で地入れ・地染め・水元を行い、実際の作業経過と染め上がった時の感想を添えて、完成した帯地を10月半ばに助手に送付、先生の評価をいただいたところで2年に渡る研修は終了した。
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令和4年より2年間に渡り、二塚長生先生による「友禅」伝承者養成研修会に参加させて頂きました。研修生5名、各地から集まりましたが友禅の若手は少なく、交流を持てたことも貴重な機会になりました。
今回は糯糊の糸目糊置きを重点にした研修で貴重な作品、資料を熟覧させて頂く得難い機会も有り、濃密で充実した時間でした。
1年目は糯糊の糸目を小裂に5分の中に5本均一に糸目糊を置いていく実習でした。二塚先生が普段使用している糸目糊を使わせて頂けるという大変貴重な機会をいただき、先生の独特な糸目の世界の一端を体感させて頂きました。「存在感のある糸目を置いていく」普段はゴム糊で制作することが多く、細く均一な糸目糊を置くことに注力しているので、これが存外難しかったのですが、だんだんと面白くなり、良い状態の糊を体感できたのは財産になりました。
2年目は前年の小裂作品の講評から始まり、課題点等が明確になりました。線で構成した糸目が主役の帯の図案を2種持参し、講評とアドバイスをいただき、それを元に帯の制作を行いました。糸目糊置きまで終了して持ち帰り、染め上げるまでが宿題になりました。先生から地色の選定から地入れ方法、地染め時の注意点など前年に引き続き細かくご指導頂き、こんなにも自分の方法と違うのかと驚きながらも大変勉強になりました。
今回の研修を通して先生の言葉の中で、原点である糊に対する考え方や「時代の感覚が大事で自分のデザインや色に取り入れる。失敗を恐れずに積み重ねて自分の仕事にしていく。美しい友禅を1点でも残すこと。」等々限りある時間の中沢山のことを伝えて頂きました。もっと深める、丁寧に作業する大切さを心にとめて今後の制作に励みたいと思います。
二塚長生先生をはじめ、研修会の期間中にご尽力頂いた皆様に心より御礼申し上げます。
執筆者:研修会助手 足立 真実(染織部会)
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