「竹工芸」伝承者養成技術研修会(2017 - 2018 年)

勝城蒼鳳先生による重要無形文化財
「竹工芸」の研修会

活動報告

  • 2017年10月27日(金)1日目

    午前8時半に施設内の大工房に集合。
    勝城先生より今後の講習内容について説明の後、栃木県内における柾割り技法の伝承に関して説明を頂く。飯塚琅玕齋・八木澤啓造らを経て勝城先生に伝承され現在に至っていて、栃木県内の真竹は柾割りに適しているという。特に東向きの竹林の竹が良質という。南向きの竹林の竹は焼けやすく硬いそうである。その後柾割り材の制法について説明を受ける。
    材料は昨年勝城先生他四名が茨城県内の東向きの竹林から伐採してきた真竹を工房で油抜きした材を使用する。
    磨き包丁で節間を刃を立てて表皮を削り落とした後、節の袴部分をまず両刃で削り取り次に反対方向から同じく節の稜線を残しながら削り取る。その後木賊で表皮を擦り磨きをかけ艶を上げる。
    午後からは勝城先生が実際に節取り作業を実演されたが、そのリズミカルな包丁さばきがなんとも心地よい。その後講習生達は各々の場所に戻り表皮磨きの作業に入る。
    一通り竹磨きと木賊磨きの作業を終えた後、柾割り作業工程の説明を受ける。真竹を半分に割り、ディバイダーで10㎜づつ印を付け荒割りを行う。大工房内には竹割りの甲高い音が響き渡る。
    各々材を割り終えた所で今日の作業を終える

    竹を専用の鉈で45度の角度で5、6回に分けて切り込み伐採

    竹磨き包丁で染色しやすいように表皮を削る

  • 2017年10月28日(土)2日目

    前日荒割りした10㎜の材を厚さ3㎜に荒剥ぎし、半割にして5㎜にする。その後新しく支給された銑台で厚みを0.25㎜~0.27㎜に整え節の部分を片刃小刀で削り取り両刃小刀で4等分にする。銑台が新しいので柾材は水に浸けないで銑引きを行う。

  • 2017年10月29日(日)3日目

    柾割りの応用で千集編みの説明を受けた後、先生が柾材の束ね方の見本を示す。柾材32本を一束として節部を重ねて水引糸3号で2回綾結びした後先端を4束に分け輪ゴムで束ねる。32本1束にした材を5束で5角型に組み3号糸で十文字縛る。その後徐々に編みこんでゆく。仮組された見本を受講生が順番に少しずつ編みこんでゆくが、順番を間違えないよう皆慎重に編み進める。

    把ねの底編みを先生が行った後、受講生が順番に編組を行う

  • 2017年10月30日(月)4日目

    柾割材で作品を創作する良さについて解説を受ける。柾割材の良さは渋さを出せる所にあり仕上げに古色を付けると使用時に花や盛物が生きて見える。又作品だけの鑑賞の場合は素材の動きや空間のリズムを出すのに向いているという。
    午後からは各自銑引きに専念する。銑引きは3回~4回行い最終的に厚み0.35㎜~0.4㎜までに仕上げる。

  • 2017年10月31日(火)5日目

    午前中はひたすら銑引き作業を行い、済んだ受講生から染色を行う。染色はオーラミン・ベーシックレザーブラック・ビスマークブラウンコンクの3種を使用。千集編みの材料は編目が動くので先染めにする。染色後は良く水洗いをして天日干で発色させて乾かす。
    作品が仕上がってからもう一度その作品に合うように染めるが形をその時調整する。
    午後より勝城先生が自作品に2回目の拭き漆を奥久慈産の漆を使用して行う。
    漆塗りについての解説を伺う。
    一回目はむらなく塗り形を整える。2回目も同じ手順で行い、3回目は作品の様子をみて漆塗りの加減をする。

    調合した染料を湯に溶かし、仕上がった柾材を染色する

    奥久慈産の漆で拭漆の技法を指導

  • 2017年11月1日(水)6日目

    最終日は那須野ガ原博物館にて勝城作品4点を熟覧。館長が1点ずつ見付けや裏側を見せてくれるので受講生に取っては有難い事でした。
    勝城先生の説明を交えながら各自の感想を述べる。
    蕎麦屋で昼食後一年度の研修を終える。

  • 2018年11月5日(月)1日目

    今回は那須野ヶ原温泉で行う。
    最初に文化庁作制のDVD竹工芸勝城蒼鳳のわざ「やすらぎの花」の映像を観る。DVD作品に関しても質疑応答が行われ、午後からは各自の作品が並べられそれぞれの進行ぐあいの差はあるがバラエティに富んだ作品であった。

  • 2018年11月6日(火)2日目

    一名ずつ自作品に関して制作意図を述べそれに対する先生の意見を伺う。
    午後からは作品の古色仕上げの説明を受ける。作品に拭き漆を施し乾口を見て砥の粉をまぶして良く拭き取りさらにもう1度砥の粉まぶして一晩おいてから拭き取りいぼた蝋で良く磨く。

    仕上げ途中の作品に対して今後の展開を全員で論議

  • 2018年11月7日(水)3日目

    竹工芸で使用する主な材一三種(孟宗竹・真竹・淡竹・黒竹・阿亀笹・根曲竹・篶竹・篠竹・女竹・布袋竹・煤竹・寒竹・鳳尾竹)に関して其々の性質・用途の説明を受ける。午後からは勝城先生から学んだ事、今後の作品創りへの思いなどをインタビュー形式で語る。その後各自作業行う。

    各自の作品を前に制作意図を述べる

  • 2018年11月8日(木)4日目

    栃木県立美術館へ向かい、学芸員鈴木さとみ氏に企画展「工芸の教科書」を案内して頂いた。館内には栃木県内の各部門を代表する重要無形文化財保持者の作品が展示され、素材や技法に焦点をあてた図面や制作工程見本等も展示され、興味深く閲覧していた。
    集会室には勝城蒼鳳・八木澤啓造・飯田清石等の作品が予め出されていて鈴木氏から詳しい解説があり受講者からも活発な質問が行われた。その後、那須与一伝承館にて飯塚浪玕齋・勝城蒼鳳作品を熟覧。 
    館長が見付けや裏側を見せて下さったのでゆっくりと鑑賞ができた。

  • 2018年11月9日(金)5日目

    午前中は全員作業。勝城作品2点を先生から解説され、受講生からも活発な質問が飛び交う。その後作業を行う。

    受講生各自、作品の仕上げに向けて作業

  • 2018年11月10日(土)6日目

    先日観覧した栃木県立美術館の感想や今回2年に渡り受講した各自の感想及び先生の作品にたいする印象を述べる。受講生作品を前に全員で記念写真を撮り、二年間に渡る講習を終える。

    仕上がりにばらつきはあるが、作品を前に全員で記念撮影

  • 全体総括

    「一以貫之」「専精」勝城先生より頂いた色紙の言葉は作品に対する心性を物語っています。先生の自然への慈しみ作品創りへの姿勢は受講生にとって大切な指針になったと思います。有意義な経験を積まれた受講生がこれを糧に竹工芸の継承と新たな展開になる事を祈念します。

  • 平成二十九年より二年間、勝城蒼鳳先生による柾割のひご作りとそれを生かした作品制作の研修会を受講させていただきました。
    一年次は主に柾割のひご作りを学びました。先生の熟練の技ではするするとひごが出来上がっていくのですが、いざ自分で竹を割ってみると思うようにいかず、技術の未熟さを痛感することになりました。四苦八苦していると先生が傍らに座り、鉈の持ち方から懇切丁寧に指導して下さいました。
    染色や千集編みのひごの把ね方と編み進め方、擦漆を施す作業を見せていただき、6日間とは思えない充実した時間でした。
    二年次は各自が一年次に取った柾割材を生かした作品を持ち寄りましたが、それぞれ全く違った作風が集まりました。各作品について先生からご講評をいただいた上で受講生同士意見を交換しあい、自分にはない発想に刺激を受けました。
    研修中には竹の種類と活用法などの他、ご自身の作品の紹介や制作する上での信条をお話しして下さいました。竹という素材に対する愛情さえ感じる深い理解と、裏側や細部にも妥協のない細やかな心配りのある仕事に驚き、頭の下がる思いでした。様々なお話を伺うことができましたが、中でも「伝統は守るのではなく、自分で作る気持ちで」「途中でうまくいかなくても作品のイメージを変えてはいけない」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
    先生の技術はもちろんのこと、温かなお人柄と、またどこまでも真摯な姿勢に触れられたことは大きな糧となりました。教えていただいたことを今後の制作に生かしていきたいと思います。
    ご教授くださった勝城先生をはじめ、助手の佐川さん、田中さん、作品を見せていただいた美術館の皆様および研修会関係者の皆様に受講生一同、心より感謝申し上げます。