「釉裏金彩」伝承者養成技術研修会(2015 - 2016 年)

吉田美統先生による重要無形文化財
「釉裏金彩」の研修会

活動報告

  • 2015年9月7日(月)1日目

    1年目は、指定された磁器の皿に基本となる文様を釉裏金彩で表現するという、基本技術の習得を目的とした実習となりました。
    朝9時に集合。まずは、文化庁制作のDVDを鑑賞して、釉裏金彩の歴史と制作過程、そして吉田美統の作品作りに対する考え方と技法を、映像を通して研修生に理解してもらいました。
    午後からは、釉裏金彩の技法の手順の中で最もはじめに行われる下地作りを行いました。これは、昔から「テレピン叩き」と言われている上絵付けの表現技法の一つです。油性の溶剤で上絵具を溶き、適度な粘度に調整してから器面に刷毛塗りし、真綿で丁寧に叩きながら釉薬を整えていくという技法です。この作業は2種類の油性の溶剤を用いるのですが、その微妙な調整と絵具との割合が難しいところです。研修生は器用な方ばかりでしたが、綺麗に整えるのになかなか苦戦したようです。この作業を終えて、乾燥させる為に一昼夜そのままにしておきます。

    金箔製造工程を学ぶ

    下地の塗布

  • 2015年9月8日(火)2日目

    前日テレピン叩きで下地を塗布した器を、朝窯詰めした後電気炉で1回目の焼成をはじめました。焼成している間の時間を利用して、2日目は金箔の裁断を行います。
    2枚の紙に挟み込んで用意された金箔を手術用の鋏で切っていきます。まずは吉田美統自ら切り方のデモンストレーションをし、コツを教えてから研修生にやってもらいました。この作業は、比較的無理なく出来ていたように思いました。
    昼からは、あらかじめ用意された文様の型おこしの実習を行いました。この作業は、使用する文様を器面に写し取る為の転写紙をつくる作業です。竹紙という薄くて丈夫な和紙を用い、文様を透かして写し取ります。さらにその和紙を裏返し、裏から桐炭で写し取った文様をなぞり、カーボン紙のような役目をする紙を作ります。

    図案の作成

  • 2015年9月9日(水)3日目

    朝、前日焼成した素地の窯出しをしました。下地の色の表面を細かいペーパーで磨き、後で金箔にけがき線を入れたり、金泥で線描を加えたりしやすいように、滑らかに整えます。膠の薄い溶液で表面をコーティングした後で、前日作っておいた型おこし用の和紙をあて、椿の葉で和紙をこすることにより文様を写し取ります。さらに、薄墨で線を補強した後、前日裁断しておいた金箔を文様通りに貼り付けていく作業となります。これは、金箔が薄い為とても神経を使う作業となります。日頃上絵付けを作品に取り入れていない研修生にとってはかなり難易度が高かったように思われます。
    この日は、貼り付けた金箔を乾かした後、さらにけがき線を入れたり金泥で金線を描いたりする作業もはじめました。

    下図を写す

  • 2015年9月10日(木)4日目

    午前中は前日の作業の続きを行い、出来上がったものを窯詰めし、金箔の焼き付けの為の2回目の焼成を行いました。
    上絵窯の焼成時間を利用して、午後からは金箔の製造工程の見学を行いました。金沢のカタニ産業本社で、金塊から板金にする過程を見学し、それを元に次々と薄くしていく工程をそれぞれの工場で見学しました。最終の手作業で金箔に仕上げる工程を伝統工芸士の榊原さんの工房にお邪魔して見学。時間を掛けて説明と実演をして頂きました。日の光を透過するくらい薄い金箔にする為の製造工程に、研修生は非常に興味を持ってもらえたようです。

  • 2015年9月11日(金)5日目

    午前中は金箔の上に塗布する透明な釉薬の準備をしました。用意された粉末の釉薬を硝子板の上で水を加え、細かくなるまで擂り潰します。その後、ふのりを加え調整します。
    午後からは、前日金箔の焼き付けの為の焼成をしたものを窯出しし、前回と同じように薄い膠の溶液で器面を綺麗に拭いてから、調整した釉薬を全面に塗布していきます。この作業は、釉薬を一定の厚みに置いていくという感覚で、慣れないとむら無く塗っていくのは難しいのですが、研修生の方々は慣れている方も多く、比較的綺麗に仕上がっていたように思われます。その後、3回目の最終仕上げの焼成に入りました。

    金箔の貼り付け工程のデモンストレーション

  • 2015年9月12日(土)6日目

    最終日、午前中は窯から出てくるまで、課外活動です。まずは、能美市の九谷焼資料館へ行き、職員からの説明のもと九谷焼の歴史と作業工程を学びました。それから、九谷独特の絵具や道具を見る為に、材料や道具を販売している千圃堂へ行きました。研修生の方々はそれぞれ材料や道具を購入していたようです。
    午後から、窯出しをした後、出来上がった作品を見ながら、吉田美統を中心に作品の合評を行いました。その後、次年度に向けての方針を伝え、今年度の釉裏金彩の伝承者養成研修会を終了しました。

  • 2016年9月12日(月)1日目

    2年目となる伝承者養成事業は、実際の作品作りを念頭に置き、自由な文様を釉裏金彩で表現することを目標としました。これは、釉裏金彩の技術的特徴をより深く体験的に理解してもらう為です。
    事前に3種類の素地を用意し、サイズと素地の画像を研修生の方々にお知らせしました。その中から各自好きな形の素地を選び、研修会までに文様を考えてきてもらうこととしました。
    午前中は、会場を提供して頂いている九谷焼技術研修所からの要望で、研修生の方々の作陶に対する思いを各自プレゼンテーションしてもらい、後でフリートークを研修所の生徒として頂きました。それぞれが背景の違う経歴の研修生の方々なので、生徒はもちろん研修生同士でも発見と刺激があったようです。
    午後からは、下地(これは緑色に指定)を、1年次同様テレピン叩きの技法で仕上げました。

  • 2016年9月13日(火)2日目

    前日作った下地を乾燥させて、1回目の窯詰め焼成を行いました。この焼成時間を利用して、各自の図案を元に、素地に合わせて吉田美統の指導のもと再調整し型紙におこす作業に入りました。その後、この図案の型紙に番号を付け反転させてコピーをとります。この反転させる作業は、後で金箔を貼る為の重要なポイントとなります。

  • 2016年9月14日(水)3日目

    金箔の裁断・貼り付け、けがき、金彩の作業を行いました。手術用の鋏を用いた金箔の裁断は、文様の大きさや繊細さによって、作業の難易度とスピードが大きく違ってきます。また、次の金箔の貼り付けの工程にもこの大きさと繊細さが影響するので、ここにきて、研修生の方々の作業スピードと完成度に差がつきはじめてきました。細かくて繊細な文様は時間がかかり、大胆でシンプルな文様は比較的早く出来上がるということです。

    金箔貼り付け

  • 2016年9月15日(木)4日目

    前日に引き続き、金箔の裁断・貼り付け、けがき、金彩の作業を続けます。釉裏金彩の技法の特徴をよく捉えて大胆な文様を考えてきた研修生は、比較的早くこの作業を終えています。時間に余裕のある研修生には、釉裏金彩の新たな可能性を見つけ出す試みとして、自らが日頃制作している素地で釉裏金彩を試みてもらうことにしました。
    最後によく乾燥させてから、金箔の焼き付けの為の2回目の焼成をします。

  • 2016年9月16日(金)5日目

    前年同様、膠の薄い溶液を浸し固く絞った布で、窯から出た素地の表面をしっかりと叩き、金箔を押さえながら丁寧にコーティングし、最終の上薬を塗布する準備をします。透明のガラス質の上薬を塗布するには多少の経験が必要なのですが、前年同様、この作業に慣れた研修生も多くスムーズに終了したように思われます。塗り終わったら、乾燥させて3回目の仕上げの焼成です。

    釉薬の塗布

  • 2016年9月17日(土)6日目

    最終日は、前日焼成した作品が窯から出るまでの時間を利用し、加賀市の石川県九谷焼美術館の見学を行いました。美術館では、学芸員の方の説明で古九谷から近代までの九谷焼の歴史を学びました。
    午後、窯出しの後、研修生の作品を見ながら吉田美統による合評を行い、この釉裏金彩伝承者養成研修会を終了しました。

    受講生との合評

  • 全体総括

    2年間の事業の途中、空き時間を利用して北陸の海を見にでかけたり、近くの小松市埋蔵文化財センターへ出かけたりと、計画には無かった多くの息抜きもしています。研修生の方々は最初から不思議と仲が良く、2年間の研修会の間、多くの有意義な意見交換と楽しい出来事がありました。そのような話題の数々を披露する紙面がないのが残念ですが、この釉裏金彩という非常に特殊な伝統技法を、2年間の間楽しく学んで頂いたことに感謝してこの記を終わりたいと思います。

  • 絵付け、装飾加飾に関心があり制作をしてきている者にとって、金箔を魅力的に使いこなす釉裏金彩という技法には、若い頃から憧れに近い興味があり、今回、吉田美統先生に直に教わる機会に恵まれ、有り難さとまた身の引き締まる緊張感で九谷の地を伺いました。
    一年目、県立九谷焼技術研修所を使っての研修会は、まず先生のお話から始まり、続いて数年前に先生の制作を取材しまとめられたビデオを見せて頂きました。これから指導して頂く世界がどの様なものなのか、改めて心構えと伴う緊張感、また一方ではその神髄に少しでも近づけるかもしれないという楽しみ喜びが大きくなっていきました。初日の午後から始まった実技は「一年目、先ずは実際に体験を」と、基本的な技法がすべて体験できる紅葉の図案を考え用意して下さってあり、それを基に進みました。毎日全く変わる違う工程一つ一つを、これ以上無い程丁寧に実演を通して説明してくださりました。その先生のさり気なく見せて下さる何気ない作業一つ一つが、いざ自分となると「え、また・・・」と絶望に近いつぶやきが出るほど思うようにできず、苦笑の連続でした。
    二年目、先ず研修会のひと月前位に三種類の器が用意され手元に届けられ、どれか一つを選び、前年の体験を基に各々図案を考え用意して研修所に集まり始まりました。二度目の金箔切り、箔置き・・・釉薬塗布に至るまで全ての作業に、やはりたどたどしいものの、どんどん展開する毎日に楽しくて仕方ありませんでした。
    一年目も二年目もそれぞれ期間中、一週間の間に三回も焼成を重ねる大変な日程の中、作業だけでは無く、金箔作り職人のお宅や九谷の作家の工房見学、美術館や史跡巡り等々と隙の無い充実したスケジュールを用意して下さり、あらゆる側面から陶芸への造詣を深める機会を作って下さった事、とても感謝しております。様々な側面から刺激を受けた本当に有り難い毎日でした。
    最終日を迎えた時は、何とも名残惜しい気持ちで一杯でしたが、先生に「皆さんの仕事でどんどんこの技法を使い展開してください」「うちには秘法というものはありませんから何かあったら何でも聞いて下さい」そうおっしゃって頂き、この貴重な経験をしっかりこれからの制作に活かしていこうと心新たに思っています。
    最後に、ご高齢にもかかわらずじっくりとご教授下さった吉田美統先生、毎日をつきっきりで助けてくださった吉田幸央さん、夜なべをしてまで準備片付け様々な補助をしてくださった錦山窯の皆様、徳田八十吉さん、米田和さんら石川支部の皆様、そんな多くの皆様方に私たち研修生一同、心より深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました。