金工人間国宝のわざ紹介

金属は熱すると熔け、たたくとのびて広がる特徴を持っています。
金工の作品はこういった金属の特徴をうまくいかして作られ、熔かした金属を型に入れて形を作る鋳金や、たたいて形を作り上げていく鍛金、形の出来上がった金属に模様をつける彫金などの技法があります。金や銀、銅や真鍮など様々な種類の金属を使用して作品を作っています。

鍛金たんきん

鍛金は金属の塊、あるいは板を木槌や金槌で叩いて器物を成形する技法。日本では4世紀頃から行なわれるようになり、太刀の外装、甲冑、また馬具などの制作に用いられた。鍛金作品は概して大きな作品は少ないが、7世紀の制作である東京国立博物館の「鵲形柄香炉(じゃくびがたえごうろ)」のように端正で、高度な技術を示す作品も残されている。鍛金という名は明治時代になってから概念として生まれたもので、江戸時代以前は銅細工、錺などと呼ばれていた。鍛造には純粋に金属を叩いて成形する以外にも、打ち絞って器面に高低、凹凸を出す「絞(しぼ)り」や「鎚起」(ついき)、また金属板を組み合わせて、金属鑞で接合して成形していく板金(ばんきん)や、接合後にさらに鎚打して器物の型を作り出す「接合」(はぎあわせ)などがある。特殊な技法として、銅、銀、四分一など色の異なる金属の薄板を20~30枚重ねて加熱融着させ塊をつくり、その表面に孔をあけて、その後に鎚起成形することで器面全体に木目模様を表す「木目金」など、現代の金属工芸では様々な技法が展開されている。制作された器物の形だけではなく、表面に鎚打された鎚目の跡、また四分一の作品などでは表面に現れた細かな結晶など、地金の美しさも鑑賞の対象となっている。

このわざの保持者

奥山 峰石おくやま ほうせき

1995年保持者認定
切嵌象嵌牡丹文鉢

田口 壽恒たぐち としちか

2006年保持者認定
鍛朧銀盛器

玉川 宣夫たまがわ のりお

2010年保持者認定
木目金花瓶

大角 幸枝おおすみ ゆきえ

2015年保持者認定
銀打出花器「荒磯」

茶の湯釜ちゃのゆがま

茶席で亭主の代役をつとめる茶の湯釜は「わび、さび」という、極めて日本的な特色をもつ、鉄の芸術であるといわれています。茶人の趣味や趣向により、その時代の鋳物師、釜師達は、さまざまな姿、文様、肌合いの釜を生み出してきました。大陸から渡来した湯釜に起源を持ち、禅宗の影響で喫茶専用の釜となり、室町から桃山時代にかけて茶道が成立すると、茶道の美と精神を表現する茶道具として用いられるようになりました。

このわざの保持者

角谷 勇圭かくたに ゆうけい

2021年保持者認定
芦辺姥口釜

彫金ちょうきん

鋳造や鍛造によって成形された金属器の表面に鏨(たがね)を使って文様や文字を彫ったり、透かしたり、他の金属を嵌め込む技法。日本では弥生時代中期(1世紀―2世紀)の青銅器に鏨による線刻を施した作例がある。表面に線を刻す技法では、毛彫(けぼり)、蹴彫(けりぼり)、片切彫(かたきりぼり)が代表的である。毛彫は毛のように細い線を彫るもので、蹴彫は楔形をした三角形の点の連続となるところに特徴がある。中国の唐時代の金銀器の多くはこの蹴彫によって文様が表されている。片切彫は彫線の片側を深く、他方を浅く彫る技法で、江戸時代中期(18世紀)、刀剣の鐔や金具に活用された。線でありながら立体感のある表現が可能である。透彫(すかしぼり)は金属板を鏨や糸鋸で切り透かして文様を表す技法で、文様そのものの形を透かす文様透、文様を残して余白部を切り透かす地透の二つの方法がある。象嵌には、線象嵌(せんぞうがん)、平象嵌(ひらぞうがん)、高肉象嵌(たかにくぞうがん)、布目象嵌(ぬのめぞうがん)がある。線象嵌は鏨で地金に線を彫り、そのあとに糸状の金や銀を嵌め込む技法で、もっとも基本的な象嵌法である。また平象嵌は線ではなく平板を嵌め込む技法である。また高肉象嵌は、浮彫の文様を作っておき、嵌め込む地板にその浮彫文様の形を一段低く彫り、そこに浮彫の文様を嵌め込む技法である。この技法は江戸時代、17世紀に刀装金具の制作に多く用いられた。様々な色金を使用することによって、金属による絵画的な表現をすることが可能となる。

このわざの保持者

中川 衛なかがわ まもる

2004年保持者認定
象嵌朧銀花器「NY. 7:00 o'clock」

桂 盛仁かつら もりひと

2008年保持者認定
北狐帯留金具

山本 晃やまもと あきら

2014年保持者認定
切嵌象嵌接合せ箱「雪華」

銅鑼どら

銅鑼は日本では中国大陸から伝わり、仏教寺院において法会に使用された。8世紀に編録された法隆寺や東大寺の資財帳には記録がないが、入唐僧・常暁が839(承和6)年に帰国した際の請来目録には、「銅鐃一口」とあり、この鐃は銅鑼の事で、平安時代初期には伝わっていたとみられる。その後の戦国時代には軍陣で使用され、また茶の湯おいては、茶席に招き入れる合図として打ち鳴らされた。銅鑼の音は余韻が長く続くこと、音が明瞭であることなどが良いとされる。材質は銅がほとんどであるが、銅に錫などを加えた合金である「砂張(さはり)」も用いられた。砂張は響銅ともいわれ、叩くとよい音がするのが特徴である。仏具と茶の湯に用いられる銅鑼の形状は多少異なるが、基本的には盥(たらい)のような形で、胴に孔をあけ、紐を通して懸吊する。制作法は原型に厚みとなる分の蠟を貼って鋳型として、そこに熔かした砂張を流し込み、熱が冷めたところで鋳型から取り出し、さらにそれに熱を加えながら金鎚で打ち締め、分子密度を高くしていく。これによって銅鑼独特の低く長い余韻が続くようになる。その後鑢(やすり)で表面を削って平滑にし、さらに漆を焼き付けて仕上げる。

このわざの保持者

魚住 為楽うおずみ いらく

2002年保持者認定
砂張鉦
  • 2023年3月31日時点の認定情報を元に掲載