「彫金」伝承者養成技術研修会(2020 - 2021 年)

中川衛先生による重要無形文化財
「彫金」の研修会

講師紹介

  • 中川 衛
  • なかがわ まもる
  • 重要無形文化財「彫金」保持者

<研修会について> 彫金技法の中の平象嵌技法で、鋳造花器に象嵌文様をつける制作作業を、工程を追って実施した。実技の前には象嵌のはじまりや歴史、時代による盛衰、象嵌の種類、各工程の手法、道具である鏨の種類と使い方やデザイン展開の重要性を講義する。技法は象嵌に必要な基本の鏨の製作、文様罫書き、線彫り、面彫り、アリ溝たて、紋金制作、紋金打込み、研磨、煮色着色と、順を追って研修する。短期間での研修で時間が足りず、各自が家での制作、夜遅くまでの作業と、苦労がありました。

実施概要

  • 期間
    2020年11月16日~21日 /
    2021年11月15日~20日
  • 会場
    中川衛工房(石川県金沢市)
  • 講師
    中川衛
  • 助手
    2名
  • 受講者
    6名

実施スケジュール

2020年11月16日(月)
  • 世界の象嵌について紹介、象嵌で線や面を彫る際使用する鏨について製作や、鏨の焼き入れ方法の説明、直線・曲線用線彫り鏨(0.6ミリ幅)、面はつり用鏨(2ミリ、4ミリ幅)製作実習
2020年11月17日(火)
  • 面はつり鏨製作実習の続き、アリ溝を立てる際や、紋金を打ち込む際使用する鏨について製作の説明、直線(3ミリ幅)と曲線用アリ溝鏨、打ち込み用鏨(1.5ミリ、3ミリ径)製作実習
2020年11月18日(水)
  • お多福鎚について製作説明、製作実習、キサゲについて製作説明、製作実習、実際に直線を彫って、銅線を象嵌する練習
2020年11月19日(木)
  • 脂について説明、講師がデザイン準備した鋳物の胎に脂を溶かし入れ、真鍮板(2ミリ厚)に、課題とした象嵌練習用の図をケガキ針で描く、直線部分を彫って、銅線を象嵌する
2020年11月20日(金)
  • 曲線部分を彫って、銅線を象嵌する、円の1/4部分に四分一の板(1.2ミリ厚)を象嵌し、ヤスリをかける、四分一と隣接した残りの1/4部分に銀の板(1ミリ)を重ね象嵌し、ヤスリがけ
2020年11月21日(土)
  • 残っている銀線部分を象嵌し、練習用板全体にヤスリをかける、鋳物の胎に加飾する象嵌図案を考え、個別に講師と相談しデザインを決定する、各自ケガキ針等で印をつけ彫る準備をし、来年度に備え持ち帰り作業を進める
2021年11月15日(月)
  • 作品の模様デザインや重ね象嵌手順の再確認、受講者各自で作品への象嵌作業を進める、 各受講者象嵌のポイントとなる部分について、講師のデモンストレーション
2021年11月16日(火)
  • 受講者各自で作品への象嵌作業を進める、各受講者象嵌のポイントとなる部分について、講師のデモンストレーション
2021年11月17日(水)
  • 受講者各自で作品への象嵌作業を進める、 各受講者象嵌のポイントとなる部分について、講師のデモンストレーション
2021年11月18日(木)
  • 受講者各自で作品への象嵌作業を進める、象嵌部分ヤスリがけ(中目、細目、油目) 作品ペーパー砥ぎ(#240、#320、#400、#600、#800) 作品脂抜き、溶けた脂の掃除
2021年11月19日(金)
  • 煮色着色について、作品ペーパー砥ぎや水砥ぎ研磨(#1000、#1500)後、カーボランダム磨き、煮色着色(仕上がった者から順次3名時間差で)
2021年11月20日(土)
  • 作品水砥ぎ研磨後、カーボランダム磨き 煮色着色(仕上がった者から順次3名時間差で) 作品錆止めのウレタンクリアー吹き付け(3名ずつ)

講師のひとこと

令和2年から3年にかけて、各年6日間の日程で伝承者養成研修会を行いました。
1年目は象嵌の歴史、技法、種類、材料や今日の現状など把握してもらう講義をして作業としました。作業は道具作りとして販売されていない鏨やキサゲの制作を行いました。鏨は手に安定して持てて彫りやすい形状にしたり、刃先が堅く、また欠けにくくする焼入れ方法を行いました。私の長年の経験から得た方法を伝承してもらい、基本の鏨、五種類を仕上げました。鏨と鎚があれば何時でも何処に居ても制作が可能です。
2年目は鋳造花器に象嵌の文様をつける研修を行いました。文様割付け、象嵌工程、からヤスリ掛け、砥石あて、炭粉研摩、着色まで一連の作業を行いましたが、いずれも大変時間がかかり、6日間では仕上りは無理であることから研修者は朝7時から夜8時まえ休まず意欲的に作業を行い作品を完成させました。技法を習得するには充分に時間を取って繰り返し体験することにあります。今回の研修だけに終わらなく引き続き技術研鑽を行い、各人の作品に取り入れて新しいアイテム、表現などになるよう研究して欲しいです。
短期間の技術研修だけに終わりましたが、今後は作品制作の企画やデザイン展開方法などを考慮した研修の実施も必要と思います。