趣旨
我国の工芸は優れた伝統をもっている。伝統的な日本工芸の優秀なことは、ひろく世界各国から認められているが、時の流れに押されて、この優れた伝統が絶えようとしている。
我国の手工業や伝統的な工芸技術は、明治三十年頃、近代工業の抬頭とともに衰えをみせたが、爾来近代工業の飛躍的な発展とともに社会の片隅においやられ、あるものはその伝統をたち、またあるものはわずかにその命脈を保っている状態である。今日命脈を保っている伝統的な工芸は、少数の強い信念をもつ人たちが、異常な熱意と、多大な犠牲をはらってわずかにその技術を伝えてきたものである。昭和二十五年文化財保護委員会が設置されると同時に、無形文化財保護の制度が設けられた。無形文化財というのは絵画、書跡、彫刻といった有形文化財に対する言葉で、能、文楽、歌舞伎、舞踊といった芸能と、今回展示するいろいろの工芸技術及びその他の無形の文化的所産を包括する名称である。
文化財保護委員会は、これらのうち特に価値の高いもので国が保護しなければ亡びようとする伝統的な工芸技術の保護助成のため、昭和二十七年三月以来、無形文化財として四十七種の伝統的な工芸技術を選定し、記録の作製、後継者の養成などが実施されている。然し一般にはどんな技術が伝わり、どんなものが選ばれているのか、まだよく知られていない憾みがあるので、このたび無形文化財に選定されている工芸技術の第一回綜合展を開くことになった。いずれも名人といえる人たちの作でも、特に優れたものが選ばれていて、わが国の伝統的な工芸技術の最高水準を示すものと思う。