漆芸人間国宝のわざ紹介

漆芸とは漆の木から出る樹液を器の表面に塗ったり模様を描いて作品を作る技術のことを言います。漆は固まると水をはじき、腐らない被膜を作るので、昔から生活の道具に用いられてきました。椀や箸、盆や重箱など身の回りには様々な漆が塗られた器を見つけることが出来ます。現在では椀や盆といった生活用品のほかに、茶道具(棗や香合など)や飾箱など美しい漆芸作品が作られています。

髹漆きゅうしつ

漆芸の刷毛や箆(へら)で漆を塗る技術の一つ。漆塗りとも言い、漆芸の根幹をなす重要な技法である。文化財の用語としての「髹漆」は、素地の造形から下地の工程を経て上塗、仕上げ工程に至るまで含めている。生漆(きうるし)は漆樹の外皮と材部の間を鎌で傷をつけると滲み出る乳白色の樹液で、空気に触れると褐色に変化する。漆は他の塗料のように水分が蒸発して乾くのではなく、ゴム質中のラッカーゼの作用によって固化する。素地には木材、竹、布、和紙などを用いる。木製素地には板を組んでつくる指物(さしもの)、薄く削った板を円形に曲げる曲輪(まげわ)、木地を轆轤で回転させて削り出す挽物(ひきもの)がある。その他に竹を編んだ籃胎(らんたい)素地、麻布を素地とする乾漆(かんしつ)、皮製素地の漆皮箱(うるしかわはこ)がある。下地には生漆に木粉を混ぜた堅地、生漆に砥の粉を混ぜた錆地などの他に漆以外の材を用いた膠(にかわ)下地、渋(しぶ)下地などがある。上塗り仕上げは、漆面を塗っただけで研ぎ出さずに仕上げる塗立(ぬりたて)や花塗(はなぬり)、磨いて光沢を出す蠟色塗などの技法がある。

このわざの保持者
撮影:大橋弘

大西 勲おおにし いさお

2002年保持者認定
曲輪造八角足付盛器
提供:石川県輪島漆芸研修所

小森 邦衞こもり くにえ

2006年保持者認定
籃胎十二稜菓子器

増村 紀一郎ますむら きいちろう

2008年保持者認定
乾漆銀地水指「瀑」

蒟醬きんま

漆芸の加飾技法の一つ。漆の塗面に特殊な蒟醬刀(きんまとう)で文様を線彫りし、その凹部に朱・緑・黄色などの色漆を埋め込み研ぎ出し磨いて仕上げる技法、一種の填漆である。タイ・ミャンマーを代表する漆芸技法として知られる。蒟醬の発生はタイ北部のチェンマイを王都として栄えたランナー王国時代に興った技法とされる。ランナー王国時代の蒟醬漆器は、アジア諸国と中国、琉球、アユタヤとの交易、その後の朱印船貿易によって数多く日本にもたらされ、今日に16・17世紀の蒟醬遺物が多数伝存する。日本では江戸時代(19世紀)に高松の玉楮象谷(たまかじ ぞうこく)(1806-1869)によって、蒟醬を模した技術が開発され、現在の高松を代表する技法となっている。

このわざの保持者

山下 義人やました よしと

2013年保持者認定
夕立蒟醬花器

大谷 早人おおたに はやと

2020年保持者認定
籃胎蒟醬十二角食龍「清流」

沈金ちんきん

漆芸の加飾技法の一つ。漆塗面に刀(とう)や沈金鑿(ちんきんのみ)で文様を線彫りし、その溝に摺漆を施すか金箔あるいは金粉を押し込み、文様を表す技法のこと。彫刻技法には、線彫り、点彫り、片切彫り(かたぎりぼり)などの種類がある。刻文には金箔置き、金粉入れなどの他に素彫りのままで仕上げるものもある。金箔や金粉の代わりに銀を用いたものを「沈銀(ちんぎん)」と呼ぶ。「沈金」は和名で、中国宋時代から行われた「鎗金」「戧金」に当たる。

このわざの保持者
提供:石川県輪島漆芸研修所

前 史雄まえ ふみお

1999年保持者認定
千鳥沈金箱

山岸 一男やまぎし かずお

2018年保持者認定
沈黒象嵌合子「能登残照」

蒔絵まきえ

漆芸の代表的な加飾技法の一つ。漆塗面に漆で文様を描き、その漆が固まらないうちに金銀粉などの金属粉を蒔き付け、さらに漆で固め研磨して仕上げるもので、漆の接着力の強さを利用した技法である。蒔絵は蒔絵粉を漆で数度塗り込めて、その後研炭で蒔絵粉が表面に出るまで研いで仕上げる研出蒔絵(とぎだしまきえ)。それを簡便化して文様部分だけを漆で固めた平蒔絵(ひらまきえ)。さらに漆や炭粉、錫粉などで文様部を高く盛り上げて立体的に表した高蒔絵(たかまきえ)の基本的な三種類の技法がある。蒔絵粉は、金・銀・銅・錫・鉛・白金・アルミニウムなどの金属粉、青金・赤銅などの合金の他に乾漆粉、炭粉(ホオノキやツバキの炭を粒子にしたもの)、色粉(いろこ)(透漆に顔料を混ぜた色漆を粒子状にしたもの)などがある。蒔絵は、正倉院宝物の「金銀鈿装唐太刀(きんぎんでんそうからたち)」(8世紀)の鞘の装飾が後世の研出蒔絵と同一技法とする調査結果を得て、蒔絵の発生を日本とする説が有力視されている。現代では、蒔絵に貝を用いる蒔絵螺鈿、金属板を用いる平文、卵の殻を用いる卵殻などの技法を併用して幅広い表現が行なわれている。

このわざの保持者

室瀬  和美むろせ かずみ

2008年保持者認定
蒔絵螺鈿長手箱「地動」
提供:石川県輪島漆芸研修所

中野 孝一なかの こういち

2010年保持者認定
蒔絵箱「風神・雷神」
  • 【出典】「伝統工芸ってなに?-見る・知る・楽しむガイドブックー」編:公益社団法人日本工芸会東日本支部、発行:美術書出版 株式会社 芸艸堂新規ウィンドウで開く
  • 「日本の人間国宝・伝統工芸」監修:公益社団法人日本工芸会、発行:上海世久非物質文化遺産保護基金会発行、協力:公益財団法人笹川平和財団笹川日中友好基金
  • 2023年3月31日時点の認定情報を元に掲載